刑法(凶器準備集合・結集罪)

凶器準備集合・結集罪(9) ~ 凶器準備集合罪⑧「凶器の具体例」を説明

 前回の記事の続きです。

 凶器準備集合罪は、刑法208条の2第1項で、

2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 この記事では、条文中にある「凶器」に関し、凶器の具体例を

  1. 凶器に当たるとされたもの
  2. 凶器に当たらないとされたもの

に分けて説明します。

凶器の具体例

1⃣ 凶器に当たるとされたもの

 凶器に当たるとされたものとして、以下のものがあります。

① 長さ約2メートル前後の角棒(東京高裁判決 昭和44年9月29日

② 点火のための紙片がはがれて発火炎上しなかった火炎瓶(東京高裁判決 昭和46年1月18日

③ 広島高裁松江支部判決 昭和39年1月20日

④ 丸太・角材、コンクリートの塊(東京高裁判決 昭和44年9月29日

⑤ 火炎びん(東京高裁判決 昭和46年1月18日

⑥ 長さ約120cm太さ約3.5cm~約4.5cmの角材の柄付きのプラカード(東京地裁判決 昭和46年3月19日)

 この判決では、

  • 客観的状況からしてプラカードとして使用されるのではなく闘争の際に使用される意図が明らかに外部的に覚知され、社会通念に照らし人の、視聴覚上、直ちに危険性を感ぜしめる状態になれば凶器になる

とし、上記プラカードを凶器であると認定しました。

⑦ コンクリート塊、竹竿東京高裁判決 昭和46年7月9日

 この判決は、

  • コンクリート塊、竹竿も、その数量、集合の人数、態様、集合者の用法に関する意図によっては、刑法208条の2にいう「凶器」にあたると解することができる

と判示しました。

⑧ 石塊(仙台高裁判決 昭和47年7月18日)

 この判決は、

  • 火炎瓶と一緒に「機動隊粉砕」のために用意された具体的状況により単なる石塊も凶器というに充分といわざるを得ない

と判示しました。

⑨ 2mから2m半くらいの長さの竹竿、コーラ・牛乳の空びん、石塊(東京高裁判決 昭和47年7月19日)

⑩ 長さが3~4mの旗竿(福岡地裁判決 昭和49年8月26日)

 この判決は、

  • 長さが3ないし4メートルの旗ざおは、それが旗ざおとして使用されている限りではもとより凶器ということはできないが、それを用いて突いたりたたいたりするときは、人を殺傷することが十分可能であり、他人をして危険感を抱かせるに足りるものであるから、外観上その旗ざおが武器として使用されるものであることが覚知される状況になったときは凶器性を帯有するに至るものというべきである

と判示しました。

⑪ 多数の者が集団的行動として利用したこぶし大くらいの大きさの石塊(東京高裁判決 昭和50年2月28日)

⑫ 身長に匹敵するくらいの長さの丸棒(東京高裁判決 昭和51年5月6日

⑫ 先端部分に旗がとりつけられている旗竿(東京高裁判決 昭和51年10月13日)

 この判決は、

  • 先端部分に旗がとりつけられている旗竿であっても、その形状、本件集合時における状況及び所属集団による一連の行動等を総合して考察すれば、社会通念上、人をして一見直ちに危険感を抱かせるに十分なものであり、凶器準備集合罪にいう凶器に該当する

と判示しました。

⑬ 竹竿約10本、コカコーラ瓶約100本(名古屋高裁判決 昭和55年11月18日)

 この判決は、

  • 竹竿約10本及びコカコーラ瓶約100本は、その性質上、人を殺傷するために作られたものではないが、用法によっては、人の生命、身体又は財産に害を加えるに足りる器物であることは明らかであり、右認定の本件具体的状況、ことに被告人をはじめ原判示集会参加者らが、原判示警察機動隊員らの身体に対して多数一団となって攻撃を加えるため、竹竿約10本を槍ぶすまのごとく構え、コカコーラ瓶を投てきしようとした段階においては、もはやこれらの器物は、専ら通常の使用目的に従った状態におかれているものと見る余地は全くなくなっていて、二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に害を加える目的をもってこれを準備して集合すれば、明らかに、社会通念上、一般人をして危険感を抱かせるに足りる性質を帯有するにいたっているものであるから、刑法208条の2にいう「凶器」に該当すると解すべきである

と判示しました。

2⃣ 凶器に当たらないとされたもの

① 長さ約1.5m、直径約2.5cmくらいで旗の巻いてある軽い竹竿、火炎びんにみせかけるため殺虫剤又は農薬を入れたビールびん、ポケットの中に入れた手中に収まる程度の小石3個(東京地裁判決 昭和45年7月11日)

 この判決は、

  • 一般に刑罰法規にいわゆる凶器とは人を殺傷すべき特性を持った器具を意味すると解し得るが、凶器準備集合罪の罪質が主として個人の生命、身体または財産に害を加える殺人、傷害または器物損壊等の予備罪的な性格を持っと同時に、社会生活の平穏を侵害するという公共危険罪的な性格を持っことに鑑みると、凶器準備集合罪にいう凶器とは、その器具本来の用途から、またはその構造上人を殺傷し得るに足る形状および性能を有している点から、社会通念上人の視覚により直ちに人の生命または身体に対して客観的に危険の感を抱かしめるに足りるものでなければならない
  • これを本件についてみるに被告人Kらが所持したと認められる角材は長さ約180センチメートる前後、太さも数センチメートル角の木材であり、その形状において一種の棍棒ともいうべきものであって、右に検討した要件を備えるといわなければならない
  • これに対し被告人Sが所持していた旗竿は、2本つなぎのもので、それは、長さこそ1本につき約1.5メートルに及ぶとはいうものの、直径はわずか約2ないし2.5センチメートルの軽い竹竿であり、特に本件当時は、これに文部省の窓から掲げようとしていた全学連中核派の旗を巻いていたことをも考えると、その性能および形状の点で、人の生命又は身体に対して危険の感を抱かせる程度は、前記角材とかなりの差があるといわなければならない
  • そうとするならば、右旗竿は凶器には該当せず、したがって、被告人Sについては、刑法208条の2、1項前段の罪は成立せず、同項後段の罪が成立するに過ぎないといわなければならない。
  • 次に、ビールびんについては、本件において学生らが右ビールびんを持参したのは、これによって警察官らを殴打等するというのではなく、これを火炎びんに見せかけるためのものであったところ、警視庁科学検査所長作成の鑑定結果回答書によれば、右ビールびんの内容物は殺虫剤 ないし農薬であったことが認められるから、それは直ちに人の生命又は身体に対する客観的な危険性を備えているとは解し難いから、凶器に当るとは解せられない
  • 凶器準備集合罪にいう凶器とは、前述したように、その器具本来の用途から、またはその構造上人を殺傷し得るに足る形状および性能を有している点から、社会通念上人の視覚により直ちに人の生命または身体に対して客観的に危険の感を抱かしめるに足りるものでなけれはならない
  • しかし、被告人Kが所有していた石3個はいずれも手中に取まる程度のもので、現に被告人国分は逮捕された当時3個とも左ジャンパーポケットの中に入れていたのであるから、前述した凶器の要件を備えるとは解し難い

と判示しました。

② 横2m、縦1.5mの布製の旗を付けた長さ2.7mの切り口のとがっていない竹竿(東京地裁判決 昭和45年10月1日)

 この判決は、

  • 刑法第208条の2でいう凶器とは、(1)当該器具の本来の性質が人を殺傷するために作られたものを指称することはいうまでもないが、(2)人を殺傷するために作られたものではなくても、客観的に人を殺傷することに用いることができ、かつ、攻撃又は防御のためこれを手にして構えた場合においては通常人をして直ちに危険を感ぜしめるに足りるものもまた、これに該当すると解すべきところ、被告人の供述によれば、被告人が本件当時所持していたという旗付き竹竿は、長さ約2.7m、元口の直径約4cm、末ロの直径約2.3cmの竹竿で、元口、末口共に尖っておらず、切口は水平であり、しかもこれが末口のほぼ先端から取り付けられた布製旗は横約2m、縦約1.5と認められるので、その対角線の長さはルート2のニ乗+1.5のニ乗m、すなわち約2.5mで、被告人は右ホーム上からは竿に付けた旗を巻かず広げたまま握持していたのであるから、垂れた旗は竹竿の長さより約20cm短いに過ぎず、これを横にして槍の如く構えたときは自らの足で旗を踏み付けて動きがとれず、又これを上下左右に振っても極めて緩慢な動作しかとれぬことも経験則上明白であり、たとえ旗を竹竿に巻いて右の如く構えても、巻かれた布地により竹竿自体の攻撃的性格を著しるしく弱わめるに至るため、到底通常人をして直ちに危険を感ぜしめるに足りるものではない
  • 右のような旗付き竹竿は、石塊がごく小粒かつ少量の場合を除いてその大小を問わず、古代からの接近戦、非接近戦を通じて、有力な武器として威力を発揮し来たもので、これを手にして構え、又はゴム若しくは発条を使って発射の体勢を示した場合においては、その威力火器に劣るとはいえ、現代でもなお通常人をして直ちに危険を感ぜしめるゆえ凶器と解される(これに反する判断を示した下級審判決には賛同できない。)のとは、甚しくその性質を異にするというべく、右旗付き竹竿は、到底凶器と認めることができない

と判示しました。

③ ダンプカー(最高裁判決 昭和47年3月14日

 この判決は、

  • 他人を殺傷する用具として利用する意図のもとに準備されたダンプカーであっても、他人を殺傷する用具として利用される外観を呈しておらず、社会通念に照し、直ちに他人をして危険感を抱かせるに足りない場合には、刑法208条の2にいう「凶器」に当たらない

と判示しました。

 この最高裁判決の事案は、暴力団の抗争の間に、相手方が自動車で押し掛けてくるのを迎え撃つのに使用する目的でダンプカー1台を準備していたもので、その凶器性が争われたもので、ダンプカーの凶器性を一般的に否定することなく、具体的状況により凶器準備集合罪の凶器となり得ることを前提として、ダンプカーのごとき用具が凶器としての性質を取得するのは、犯人がこれを凶器として使用する意図を有しているだけではなく、その意思が外部から覚知される必要があり、この段階に至って初めて凶器として認められることとなる旨を、「社会通念に照らし人をして危険感を抱かせるに足りるもの」という限定基準を設定して明らかにしたものです。

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