前回の記事の続きです。
この記事では、未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)を「本罪」といって説明します。
略取・誘拐の意味
本罪の行為は、
略取又は誘拐すること
です。
「略取」「誘拐」とは、
人を保護されている状態から引き離し、自己又は第三者の事実的支配の下に置くこと
をいいます。
「略取」「誘拐」を併せて「拐取」といいます。
略取と誘拐の区別
「略取」と「誘拐」との区別について、
- 「略取」は暴行又は脅迫を手段とする場合である
- 「誘拐」は欺岡又は誘惑を手段とする場合である
とするのが判例の立場です。
略取について判示したのが以下の判例です。
大審院判決(明治43年9月30日)
実父が親権者である養母の監護の下にあった小学生を頭から毛布に包み嫁に背負わせて略取した事案です。
裁判所は、
- 未成年者の略取罪は、暴行又は脅迫を加え、幼者を不法に自己の実力内に移し、一方において監督者(もし監督者ある場合においては)の監督権を侵害すると同時に、他の一方において幼者の自由を拘束するの行為をいうものとす
と判示しました。
誘拐について判示したのが以下の2つの判例です。
大審院判決(大正12年3月13日)
19歳の女性に対して前借金を自己に領得する企図を秘し、酌婦稼業をすれば多額の収入があると告知して誘惑し、山梨県から名古屋市まで連れ出した後、被害者が被告人の目的とする娼妓稼業をすることに同意し又は欺罔誘惑の手段を用いたことを宥恕した事案です。
※ R4.4.1より前は未成年者とは20歳未満の者であった
裁判所は、
- 刑法第224条及び第225条の誘拐罪は、詐欺又は誘惑の手段を用い、本人又は監護権者(未成年者の場合においては)の意思に反して他人(未成年者たる他人を含む)を自己の実力的支配内に置くにより成立するをもって、事後において被誘拐者が犯人の詐欺又は誘惑の手段を施用したることを宥恕し、又は誘惑の目的たる営利わいせつ又は結婚の行為につき同意を表したるときといえども本罪の成立を阻却することなし
と判示しました。
大審院判決(大正12年12月3日)
家出中の16歳の被害者から素人屋への女中奉公方の周旋を依頼されたことに乗じ、同女を仲居又は外妾に周旋して手数料を得ようと企て、その希望先があるように装って被告人宅に留め置き、その間、素人屋に奉公することは給料が安いのに反し、仲居か外妾になれば給料が多額となり着物もできて利益になると告げて誘惑し、これを承諾させ、外妾兼仲居としてA方に住み込ませたという事案です。
裁判所は、
- 誘拐罪の手段は必ずしも詐術又は詐言によることをするものに非ず
- 詐術又は詐言に非ざる甘言によりて人を惑わし、その判断を誤らしむる如きもまた同罪の手段たることを得るものとす
- 而して、叙上甘言による誘拐の手段は、講学上にいわゆる誘惑による手段に属し、誘拐罪は犯人が詐欺又は誘惑の手段によりて他人を自己の実力的支配内に置き、これをしてその居所を移さしむる場合において成立するものとす
と判示しました。
暴行・脅迫と欺罔・誘惑との両方の手段を合わせ用いた場合には略取・誘拐罪の―罪となる
暴行・脅迫と欺罔・誘惑との両方の手段を合わせ用いた場合には略取・誘拐罪の―罪となります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(昭和10年5月1日)
父と娘に対し、娘の襟をつかんで身体を引っ張ったり、あるいは警察に父と娘を詐欺の共犯として訴えるというなどの暴行脅迫を加えるととも、周旋先が淫売を常業とする芸妓置屋業であるのに普通のカフェのように詐言して欺罔誘惑し、娘を淫売婦としてこの置屋に住み込ませたという事案です。
裁判所は、
と判示しました。