刑法(未成年者略取・誘拐罪)

未成年者略取・誘拐罪(7) ~「実行の着手時期、既遂時期」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)を「本罪」といって説明します。

実行の着手時期、既遂時期

 本罪の実行の着手時期は、

未成年者略取罪における「暴行・脅迫」、未成年者誘拐罪にける「欺罔・誘惑」の手段を開始した時

です。

 本罪の既遂時期は、

被害者を自己又は第三者の実力支配内に移した時

です。

 単に保護監督の状態から離脱させただけで、被害者を自己又は第三者の実力支配内に移していないのであれば、本罪の未遂が成立するにすぎません。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和39年12月15日)

 略取の目的で被害者宅の裏木戸を開こうとしたり、被害者の運転する自動車を約10ないし30メートルの間隔で追尾したりしたという事案で、営利略取罪(刑法225条)の未遂にもならないしました。

大阪地裁判決(昭和39年5月9日)

 被害女性A、Bを売春婦として料亭に住み込ませて働かせる目的で、A、Bらと目的地に行くため、客船さくら丸に乗船したという事案で、営利誘拐罪(刑法225条)の未遂にとどまるとした事例です。

 裁判所は、

  • 本件については被害者であるAは27歳、Bは18歳でありAは被告人Kと、Bは被告人Mとしばしば肉体関係を持つ程の親密な間柄であったこと、四国にいくに当たって同女らが積極的にこれに参加したとはいえないけれども、被告人らが同女らに一緒に旅行するように勧めたところ、Aは被告人Kが、Bは被告人Mが一緒に旅行するのであれば、2、3日四国に観光旅行をしてもよいというのでこれに承諾し、被告人K、同Mも同行して前記さくら丸に乗船したものであること、その他前示各証拠によって認められる諸般の事情を考え合わせると、未だこの段階においては同女らの自由が不法に拘束されるに到ったとは考えられない

として、営利誘拐罪の未遂にとどまるとました。

東京高裁判決(昭和30年3月26日)

 わいせつ誘拐罪(刑法225条)の事案で、裁判所は、

  • 被告人は被害者Y(当時14年)を自己の自転車に同乗させ、約13町余りを連れ去ったところを被害者の母親Mに発見されてYを奪還されたのであるから、被告人は一応被害者を自己の実力支配内に置いたものというに妨げない

と判示し、わいせつ誘拐罪の既遂を認めました。

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