刑法(未成年者略取・誘拐罪)

未成年者略取・誘拐罪(8) ~「未成年者を略取・誘拐する目的が『営利、わいせつ等』であった場合は、営利略取罪等が成立する」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)を「本罪」といって説明します。

未成年者を略取・誘拐する目的が「営利、わいせつ等」であった場合は、営利略取罪等が成立する

 未成年者を略取・誘拐する目的が、

  • 営利
  • わいせつ
  • 結婚
  • 生命若しくは身体に対する加害の目的
  • 身の代金取得の目的
  • 所在国外移送の目的

であった場合は、刑法225条刑法225条の2第1項刑法226条で処罰され、本罪の適用はありません。

 つまり、

  • 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的の場合は、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取罪・誘拐罪(刑法225条)が成立する
  • 身の代金取得の目的の場合は、身の代金略取罪・誘拐罪(刑法225条の2第1項)が成立する
  • 所在国外移送の目的の場合は、所在国外移送略取罪・誘拐罪(刑法226条)が成立する

こととなり、本罪はこれらの罪に吸収されて成立しません。

 上記以外の目的であればそのいかんを問わないので、

  • 未成年者を保護養育する目的の場合
  • 憐愍の情を動機とする場合

などでは、本罪が成立します。

 裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和31年9月27日)

 営利の目的で未成年者を誘拐した事案で、営利誘拐罪のみが成立し、未成年者誘拐罪は成立しないとした事例です。

 裁判所は、

  • 営利の目的をもって人を誘拐した場合には、その対象たる人が未成年者であると否とを問わず、刑法第225条の営利誘拐罪が成立し、同法第224条の未成年者誘拐罪が成立する余地はない

と判示しました。

大審院判決(昭和10年6月6日)

 国外移送の目的で未成年者を略取・誘拐した場合に国外移送拐取罪(刑法226条)のみが成立するとしました。

大審院判決(昭和12年9月30日)

 国外移送の目的のみならず営利の目的で未成年者を誘拐した事案で、国外移送拐取罪(刑法226条)のみが成立するとしました。

 裁判所は、

  • 未成年者なると否と、又は営利の目的に出でたると否とを問わず、苟も帝国外に移送する目的をもって人を略取又は誘拐したるときは、刑法第226条第1項の犯罪成立し、同条の犯罪は同法第224条第225条の犯罪に対し重き情状の存する特別罪の関係にあるが故に、帝国外に移送する目的をもって誘拐したる判示Aは未成年者にして、かつ営利の目的あるも、本件は刑法第226条第1項のみに該当する単一罪である

としました。

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