刑法(営利・わいせつ等略取・誘拐罪)

営利・わいせつ等略取・誘拐罪(6) ~「実行の着手、既遂時期」「行為者が営利、わいせつ等の目的を遂げたかどうかは本罪の成否に影響しない」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)を「本罪」といって説明します。

実行の着手、既遂時期

 本罪の実行の着手時期は、

略取罪における「暴行・脅迫」、誘拐罪にける「欺罔・誘惑」の手段を開始した時

です。

 本罪の既遂時期は、

被害者を自己又は第三者の実力支配内に移した時

です。

 単に保護監督の状態から離脱させただけで、被害者を自己又は第三者の実力支配内に移していないのであれば、本罪の未遂が成立するにすぎません。

営利略取罪の未遂にもならないとした裁判例

 上記裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和39年12月15日)

 略取の目的で被害者宅の裏木戸を開こうとしたり、被害者の運転する自動車を約10~30メートルの間隔で追尾するなどした事案で、営利略取罪(刑法225条)の未遂にもならないしました。

大阪地裁判決(昭和39年5月9日)

 被害女性A、Bを売春婦として料亭に住み込ませて働かせる目的で、A、Bらと目的地に行くため、客船さくら丸に乗船したという事案で、営利誘拐罪(刑法225条)の未遂にとどまるとした事例です。

 裁判所は、

  • 本件については被害者であるAは27歳、Bは18歳でありAは被告人Kと、Bは被告人Mとしばしば肉体関係を持つ程の親密な間柄であったこと、四国にいくに当たって同女らが積極的にこれに参加したとはいえないけれども、被告人らが同女らに一緒に旅行するように勧めたところ、Aは被告人Kが、Bは被告人Mが一緒に旅行するのであれば、2、3日四国に観光旅行をしてもよいというのでこれに承諾し、被告人K、同Mも同行して前記さくら丸に乗船したものであること、その他前示各証拠によって認められる諸般の事情を考え合わせると、未だこの段階においては同女らの自由が不法に拘束されるに到ったとは考えられない

として、営利誘拐罪の未遂にとどまるとました。

営利誘拐罪の未遂にとどまるとした裁判例

 上記裁判例として、以下のものがあります。

大阪地裁判決(昭和37年7月11日)

 被害女性A、Bを売春婦として料亭に住み込ませて働かせる目的でA、Bと目的地に行くため客船さくら丸に乗船した事案です。

 裁判官は、

  • 本件については被害者であるAは27才、Bは18才であり、Aは被告人Kと、Bは被告人Mとしばしば肉体関係を持つ程の親密な間柄であったこと、四国にいくに当たって同女らが積極的にこれに参加したとはいえないけれども、被告人らが同女らに一緒に旅行するように勧めたところ、Aは、被告人Kが、Bは被告人Mが一緒に旅行するのであれば、2、3日四国に観光旅行をしてもよいというのでこれに承諾し、被告人K、同Mも同行して前記さくら丸に乗船したものであること、その他前示各証拠によって認められる諸般の事情を考え合わせると、未だこの段階においては同女等の自由が不法に拘束されるに至ったとは考えられない

と判示し、営利誘拐罪の未遂にとどまるとしました。

わいせつ誘拐罪の既遂を認めた裁判例

 上記裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和30年3月26日)

 わいせつ誘拐罪(刑法225条)の事案で、裁判所は、

  • 被告人は被害者Y(当時14年)を自己の自転車に同乗させ、約13町余りを連れ去ったところを被害者の母親Mに発見されてYを奪還されたのであるから、被告人は一応被害者を自己の実力支配内に置いたものというに妨げない

と判示し、わいせつ誘拐罪の既遂を認めました。

行為者が営利、わいせつ等の目的を遂げたかどうかは本罪の成否に影響しない

 本罪は、行為者が営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的で略取・誘拐をすれば完成し、これらの目的を遂げたかどうかは犯罪の成否に影響しません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(明治44年8月18日)

 19歳の女性を誘拐して他の地方へ赴き、雇人らに住み込ませて不正の利益を得ようとし、仙台で奉公するのが利益になると言って連れ出し、同女と旅舎に宿泊中に逮捕されたという事案です。

 裁判所は、

  • 刑法第225条の誘拐の罪は、誘拐の行為ありたる時において完成するものにして、営利、わいせつ、結婚等の目的を達することは該罪の構成要件にあらず
  • 而して、いわゆる誘拐とは、他人を自己の実力的支配の下に誘い移すの義なりとす

と判示しました。

大審院判決(大正3年4月14日)

 営利の目的で少女を欺罔して親権者の監督内より誘い出した後、少女が逃走したという事案です。

 裁判所は、

  • 営利、わいせつ又は結婚の目的をもって欺罔又は誘惑の手段を用い、他人を誘引して自己の実力的支配内に置きたるときは、その行為は、刑法第225条の誘拐罪の既遂をもってこれを論ずべく、被誘拐者が犯人の支配内より脱出したるにより犯人が営利その他の目的を達すること能わざりし場合といえども、同罪の未遂に問擬(もんぎ)すべきに非ず

としました。

大審院判決(昭和14年3月17日)

 23歳の女性Aを奉公先から誘拐し、周旋人方に連行して前借金付き女中奉公契約を締結させたという事案です。

 裁判所は、

  • 前示周旋人方に連行したる時においてAを自己の実力支配下に置きたるもの、即ち、本件営利誘拐罪の既遂と認むべく、その後における女中奉公についての契約締結等は、ただこれが犯情を示したるに過ぎざるものと解すべき

と判示しました。

次の記事へ

略取、誘拐、人身売買の罪の記事一覧