刑法(営利・わいせつ等略取・誘拐罪)

営利・わいせつ等略取・誘拐罪(7) ~「本罪の罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)を「本罪」といって説明します。

本罪の罪数の考え方

 この記事では、本罪の罪数の考え方について説明します。

本罪の目的(営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的)で、未成年者を略取・誘拐した場合は、本罪のみが成立し、未成年者誘拐罪等は成立しない

 本罪の目的(営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的)で、未成年者を略取・誘拐した場合は、本罪のみが成立し、未成年者誘拐罪、未成年者略取罪(刑法224条)は成立しません。

 裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和31年9月27日)

 営利の目的で未成年者を誘拐した事案で、営利誘拐罪のみが成立し、未成年者誘拐罪は成立しないとした事例です。

 裁判所は、

  • 営利の目的をもって人を誘拐した場合には、その対象たる人が未成年者であると否とを問わず、刑法第225条の営利誘拐罪が成立し、同法第224条の未成年者誘拐罪が成立する余地はない

と判示しました。

営利の目的で同時に数人を誘拐したときは、本罪の観念的競合になる

 営利の目的で同時に数人を誘拐したときは、観念的競合刑法54条1項前段)になります。

 この点を判示した以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和31年5月26日)

 裁判所は、

  • 営利誘拐罪はその被害法益の性質に鑑み、被誘拐ごとに独立して一罪を構成するものと解すべきであるから、原判決が所論原判示第一の(三)の所為を単純一罪と認めず、これに刑法第54条第1項前段を適用したのは正当である

と判示し、営利の目的で同時に数人を誘拐した場合の罪数について、観念的競合になるとしました。

わいせつの目的で人を誘拐して自己の実力支配内に置いた後、その支配の継続中、更に営利の目的で同一人を他に誘拐したときは、包括一罪となる

 わいせつの目的で人を誘拐して自己の実力支配内に置いた後、その支配の継続中、更に営利の目的で同一人を他に誘拐したときは、包括一罪になります。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(大正13年12月12日)

 Aがわいせつ目的で17歳の女性を甘言を用いて誘拐し、旅館で同宿していた際、Bと共謀の上、酌婦にさせて前借金を取得しようと企て、同女を欺いて東京から茨木県まで誘致し、雇入ロを物色中発覚したという事案です。

 裁判所は、

  • 刑法第225条の誘拐罪は、同条所定の目的をもって欺罔誘惑の手段を施し、不法に人を自己の実力支配内に置くによりて成立するものとす
  • 故に、同罪は犯人が人をその実力支配内に置きたる時において直ちに成立すといえども、なお誘拐者に対する支配力の継続する間、その犯罪は、引き続き存立するものといわざるべからず
  • 蓋し、被誘拐者が犯人の実力支配内より脱せざる以上は、法律の保護せんとする被誘拐者の身体の自由及び監護権者あるときはその監護権は、間断なく侵害されつつあるをもってなり
  • かつ、また同条ノ誘拐罪は、その目的を異にするに従い、その犯罪の態様を異にするものにして、すなわち犯人が被誘拐者をその実力支配内に置く場合におけるその支配状態たるや、目的の異なるに従い、相同じからずして各別異の支配関係に在るものと解すべく
  • 従って、一つの目的をもって人を誘拐したる者が、その被誘拐者に対する支配力の存続中、更に他の目的をもってこれを誘拐したるときは、被誘拐者に対して、前の支配状態と異なりたる新たなる支配関係発生したるものと認むべきものなれば、すなわち、後者は、前者の犯罪成立後の事情なりとして、これを不問に付すべき理拠毫も存することなきが故に、犯人が一つの目的をもって人を誘拐し、自己の実力支配内に置きたる後、その支配力存続中に他の目的をもって同一人を誘拐したるときは、後の行為もまた前示法条所定の誘拐罪を構成するものと断定するを正当と認む
  • それ然りといえども、前者と後者とは、共に同一法益を侵害し、同一法条に触るる行為なるをもって、これを包括的に観察し、一罪として処断するを相当と為すべきも、もし、後の行為にのみ加担して、その犯罪を実行したる者あるときは、後者の罪に対する共同正犯としてこれを処罰すべきは理の然るべき所なり

と判示して、Aをわいせつ誘拐罪に、Bを無罪にした原判決破棄しました。

名古屋高裁判決(昭和31年8月13日)

 わいせつの目的をもって人を誘拐し犯人の実力支配内に置いた後、その支配力の存続中、さらに営利の目的をもって同一人を他に誘拐したときの罪数について、

  • わいせつの目的をもって人を誘拐し、犯人の実力支配内に置きたる後、その支配力の存続中、更に営利の目的をもって同一人を他に誘拐したときは、包括一罪として処淅すべきものと解するを相当とする

と判示しました。

営利の目的で誘拐して自己の実力支配内に置いた後、更にその居所を移動して利益を得た場合も、包括一罪となる

 営利の目的で誘拐して自己の実力支配内に置いた後、更にその居所を移動して利益を得た場合も、包括一罪となります。

  参考となる以下の判例があります。

大審院判決(昭和4年12月24日)

 19歳の女性を酌婦にして前借金を取得しようと企て、同女とその父親を欺き同女を連れ出しK方に住み込ませ、その実力支配の継続中、更に同女をK方からC方に酌婦として住み替えさせたという事案です。

 裁判所は、

  • 営利誘拐罪は、営利の目的をもって欺罔誘惑の手段を施し、不法に人を自己の実力支配内に置くことによって直ちに成立するといえども、被誘拐者に対する支配力が継続する間は、法律の保護せんとする被誘拐者の身体又は監護権者の監護権の侵害は依然として持続されつつあるものなるをもって、その犯罪は、被誘拐者の実力支配内より脱するまでは、なお引き続き存続するものといわざるべからず

と判示し、被告人の行為を包括一罪とした原判決を維持しました。

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