前回の記事の続きです。
この記事では、人身売買の罪(刑法226条の2)のうち、第3項の
- 営利人身買受け罪
- わいせつ人身買受け罪
- 結婚人身買受け罪
- 生命身体加害人身買受け罪
を説明します。
この記事では、①~④の罪を「本罪」といって説明します。
「営利人身買受け罪」「わいせつ人身買受け罪」「結婚人身買受け罪」「生命身体加害人身買受け罪」とは?
「営利人身買受け罪」「わいせつ人身買受け罪」「結婚人身買受け罪」「生命身体加害人身買受け罪」は、刑法226条の2第3項に規定があり、
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、1年以上10年以下の懲役に処する
と規定されます。
本罪は、成人・未成年者を問わず、営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で人を買い受ける行為について、これらの目的がある場合には法益侵害性が高まることから、「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪」(刑法225条)と同じ刑で処罰するものです。
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に制限はありません。
客体(被害者)
本罪の客体(被害者)に制限はありません。
行為
本罪の行為は、
営利、わいせつ、結婚、生命、身体に対する加害の目的で人を買い受けること
です。
上記の目的があることを除けば、人身買受け罪(刑法226条の2第1項)と同じです。
※「営利の目的」の意味については、「営利・わいせつ等略取・誘拐罪(3)」の記事参照
※「わいせつの目的」「結婚の目的」「生命若しくは身体に対する加害の目的」の意味については、「営利・わいせつ等略取・誘拐罪(4)」の記事参照
共犯
本罪と人身売渡し罪(刑法226条の2第4項)とは、必要的共犯の関係に立ち、刑法60条(共犯の規定)の適用を要せず、共に正犯として処罰されます。
実行の着手時期、既遂時期
本罪の実行の着手の時期は、
人の売買又は交換の申込みをした時点
です。
人の売買又は交換の申込みがあれば買受け行為の実行の着手があったことになり、この時点で、少なくとも本罪の未遂罪(刑法228条)が成立することになります。
本罪の既遂時期は、
現実に人身の受渡しがあった時
です。
この時点で本罪は既遂に達します。
他罪との関係
本罪と営利・わいせつ・結婚・生命身体に対する加害を目的とする「被略取者等所在国外移送罪」(刑法226条の3)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。
本罪を犯した後に被買者を逮捕・監禁すれば、本罪と「逮捕・監禁罪」(刑法220条)は、牽連犯の関係になります。