この記事では、被略取者等所在国外移送罪(刑法226条の3)を説明します。
被略取者等所在国外移送罪を「本罪」といって説明します。
被略取者等所在国外移送罪とは?
被略取者等所在国外移送罪は、刑法226条の3に規定があり、
略取され、誘拐され、又は売買された者を所在国外に移送した者は、2年以上の有期懲役に処する
と規定されます。
本罪は、略取・誘拐され、又は売買された者を所在国外に移送することを処罰するものです。
※ 略取・誘拐の意義については前の記事参照
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に制限はありません。
本罪の主体(犯人)は、保護監督者でもよいです。
客体(被害者)
本罪の客体(被害者)は、
略取され、誘拐され、売買された者
です。
「略取され、誘拐された者」とは、所在国外移送略取・誘拐罪(刑法226条)によって略取・誘拐された者に限らず、全ての略取・誘拐罪により略取・誘拐された者をいいます。
それ自体罪とならない略取・誘拐行為によって略取・誘拐された者でもよいかについては、肯定説と否定説とに分かれています。
「売買された者」とは、人身売買の罪(刑法226条の2)によってその身体を授受された者をいいます。
行為
本罪の行為は、
所在国外に移送すること
です。
「所在国外」とは、
被害者が現に所在する国の領域外
をいいます。
「移送」とは、
略取・誘拐され又は売買された者を所在国の領土、領海又は領空外に運び出すこと
をいいます。
犯意
本罪は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。
なので、本罪が成立するためには、故意が必要です。
本罪の故意として、
被害者が略取・誘拐され又は売買された者であることの認識
が必要とされます。
本罪の性格
本罪の性格については、継続犯と解する説と状態犯と解する説とに分かれています(継続犯と状態犯の説明は前の記事参照)。
既遂時期
本罪は、
略取・誘拐され又は売買された者を所在国の領土、領海又は領空外に運び出した時
に既遂となります。
本罪の成立を認めるに当たり、他国の領域内に運び入れることを要しません。
なお、本罪は未遂も処罰されます(刑法228条)。
他罪との関係
本罪の犯人が所在国外移送略取・誘拐罪を犯した場合は、両罪は牽連犯になる
所在国外移送略取・誘拐罪(刑法226条)の犯人が本罪を犯した場合の両罪の関係については、判例は牽連犯(刑法54条1項後段)としています。
大審院判決(昭和12年3月5日)
裁判官は、
- 刑法第226条第1項の国外誘拐罪は、帝国外に移送する目的をもって人を誘拐するによりて成立し、必ずしもその被誘拐者を帝国外に移送することを要するものにあらず
- また、同条第2項の国外移送罪は、単に同法第224条ないし第226条第1項の被誘拐者又は被害者を帝国外に移送するによりて成立し、移送者自ら人を誘拐し、若しくは売買することを必要とせざるが故に、両者はそれぞれ構成要件を異にする別個の犯罪にして、その一方が成立するときは、他方は当然にこれに包含又は吸収せられて別罪を構成せざるものということ能わず
- 従って、帝国外に移送する目的をもって人を誘拐したる者が、その被誘拐者を帝国外に移送したるときは、その行為中、誘拐の点は前示第226条第1項に、移送の点は同条第2項に各該当し、なおその両行為の間には、手段結果の関係あるをもって同法第54条第1項後段、第10条を適用すべきもと解すべく…
としました。
なお、本罪を規定する刑法226条は、平成17年に改正され、刑法226条2項は削除されています。
上記判例は改正前刑法226条1項・2項に基づいています。
平成17年改正前の刑法226条1項は、「日本国外に移送する目的」による略取・誘拐に限られていましたが、改正後は、「所在国外に移送する目的」による略取・誘拐にまで処罰範囲が拡大されました。
処罰範囲が拡大された理由としては、所在国に引き続きとどまる自由、現に所在しているという事実状態自体を保護する必要性が高いことが挙げられています。
平成17年改正前の刑法226条2項は削除され、その前半部分(日本国外に移送する目的
による売買)は現行法の刑法226条の2第5項に、また、後半部分(被拐取者・被売買者の日本国外への移送)
本罪と人身売買の罪との関係
本罪と人身売買の罪(刑法226条の2)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。