前回の記事の続きです。
この記事では、刑法227条の罪のうち、第1項の
- 営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等収受罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等輸送罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等蔵匿罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等隠避罪
を説明します。
この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。
営利略取等幇助目的被略取者等引渡し・収受・輸送・蔵匿・隠避罪とは?
本罪は、刑法227条第1項に規定があり、
第224条(未成年者略取及び誘拐)、第225条(営利目的等略取及び誘拐)又は前三条【第226条(所在国外移送目的略取及び誘拐)、第226条の2(人身売買)、第226条の3(被略取者等所在国外移送)】の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、3月以上5年以下の懲役に処する
と規定されます。
本罪は、
を犯した者を幇助する目的で、略取・誘拐され又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させる行為を処罰するものです。
本罪は、事後従犯であり、刑法62条に規定される幇助とは異なります。
※ 略取・誘拐の意義については前の記事参照
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に制限はありません。
ただし、
の正犯は、本罪の主体(犯人)から除外されます。
つまり、①~⑤の罪を犯した犯人が本罪の行為をしても、本罪は成立しません。
しかし、①~③の罪の正犯ではなく、教唆者又は幇助者は、本罪の引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させる行為をすれば、本罪の主体となり得ます。
客体(被害者)
本罪の客体(被害者)は、
- 未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)、営利等略取・誘拐罪(刑法225条)、所在国外移送略取・誘拐罪(刑法226条)によって「略取され、誘拐された者」
又は
です。
略取・誘拐され又は売買された者とは、
- 略取・誘拐行為又は人身売買行為が完成した後(実力支配が設定された後)に略取・誘拐され又は売買された者
をいい、それ以前の者を含みません。
※ 略取・誘拐の意味の説明は前の記事参照
本罪の行為
本罪(刑法227条第1項)の行為は、
を犯した者を幇助する目的で、略取・誘拐され又は売買された者を
です。
「幇助する目的」とは?
刑法227条第1項の条文中にある「幇助する目的」とは、刑法62条の幇助とは異なり、
略取・誘拐行為若しくは人身売買行為の終了後の本犯の結果を確保するため又はその発見を妨げるために加功する目的
をいいます。
略取・誘拐行為前又は略取・誘拐行為時の幇助行為を含みません。
また、
- 略取・誘拐され又は売買された者を救出し又は逃走させるための収受
- 自己自身の目的を追求するための収受(例えば、結婚目的の収受)
は、「幇助する目的」を欠くので、本罪には当たらず、本罪は成立しません。
幇助する目的は、刑法65条(身分犯の共犯)の「身分」ではないと解されています。
「引渡し」とは?
刑法227条第1項の条文中にある「引渡し」とは、
略取・誘拐され又は売買された者の支配を他の者に移転させること
をいいます。
「収受」とは?
刑法227条第1項の条文中にある「収受」とは、
有償・無償を問わず、略取・誘拐され又は売買された者の交付を受けて自己の実力支配下に置くこと
をいいます。
略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を有償で取得すれば、人身売買罪(刑法226条の2)が成立することになります。
略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を直接収受する場合のほか、収受者から更に収受する場合も「収受」に含みます。
「輸送」とは?
刑法227条第1項の条文中にある「輸送」とは、
略取・誘拐され又は売買された者を特定の場所から他の場所へ移転させること
をいいます。
「蔵匿」とは?
略取・誘拐され又は売買された者の発見を妨げる場所を提供すること
をいいます。
したがって、「蔵匿」は必ずしも略取・誘拐され又は売買された者を犯人自身の手元に置くことを要しません。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(明治44年7月28日)
裁判所は、
- 刑法第227条にいわゆる蔵匿とは、被拐取者にその発見を妨ぐべき場所を供給することを指称するものとす
- 而して、原判決に認めたる如く、被告AがBの被誘拐者なることを知りながら、被告Cらを幇助するため、旅館の投宿人名簿にBの住所、氏名、年齢を偽り記入し、同旅館に滞在せしめたるは、すなわち被誘拐者たるBの発見を妨げるため、詐欺の手段を用い、これに一定の場所を供給したるものにして、その行為が刑法第227条第1項の犯罪を構成するやもとより論なし
と判示しました。
「隠避」とは?
蔵匿以外の方法で、略取・誘拐され又は売買された者の発見を妨げる一切の行為
をいいます。
隠避の例として、
- 略取・誘拐された者を変装させること
- 所在場所を偽装すること
- 旅費を給したり自動車を提供すること
などが挙げられます。
未遂規定
本罪の未遂は処罰されます(刑法228条)。
犯罪の種類(継続犯又は状態犯)
本罪が継続犯か状態犯かについて、継続犯であるとする「継続犯説」と、状態犯であるとする「状態犯説」の2説があります(状態犯と接続犯の説明は前の記事参照)。
接続犯説の考え方として、「略取・誘拐を即時犯と解する立場から、この場合も即時犯と解するのが相当であるとも考えられるが、とくに蔵匿については、その行為が当然に継続的な行為を予想していることからして、監禁罪と同様、継続犯と解するのがむしろ適当であろう」とするものがあります。
状態犯説の考え方として、「拐取罪が継続犯であるとすれば、営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪等ではなく、拐取罪の共犯が成立するはずである(実例として、東京高裁昭和31年8月20日判決)」とするものがあります。