刑法(被略取者引渡し等の罪)

被略取者引渡し等の罪(5) ~刑法227条2項の罪「身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し・収受・輸送・蔵匿・隠避罪とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法227条の罪のうち、第2項の

  • 身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し罪
  • 身の代金拐取幇助目的被略取者等収受罪
  • 身の代金拐取幇助目的被略取者等輸送罪
  • 身の代金拐取幇助目的被略取者等蔵匿罪
  • 身の代金拐取幇助目的被略取者等隠避罪

を説明します。

 この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。

身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し・収受・輸送・蔵匿・隠避罪とは?

 本罪は、刑法227条第2項に規定があり、

第225条の2第1項(身の代金目的略取等)の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、1年以上10年以下の懲役に処する

と規定されます。

 本罪は、

身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)を犯した者を幇助する目的で、略取・誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させる行為を処罰するもの

です。

 本罪は、事後従犯であり、刑法62条に規定される幇助とは異なります。

※ 略取・誘拐の意義については前の記事参照

主体(犯人)

 本罪の主体(犯人)は、身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)の正犯は除外されます。

 それ以外に、本罪の主体(犯人)に制限はありません。

客体(被害者)

 本罪の客体(被害者)は、

身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)によって「略取され又は誘拐された者」

です。

本罪の行為

 本罪(刑法227条第2項)の行為は、

身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)を犯した者を幇助する目的で、略取・誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させる

ことです。

「幇助する目的」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「幇助する目的」とは、刑法62条の幇助とは異なり、

略取・誘拐行為若しくは人身売買行為の終了後の本犯の結果を確保するため又はその発見を妨げるために加功する目的

をいいます。

 略取・誘拐行為前又は略取・誘拐行為時の幇助行為を含みません。

 また、

  • 略取・誘拐され又は売買された者を救出し又は逃走させるための収受
  • 自己自身の目的を追求するための収受(例えば、結婚目的の収受)

は、「幇助する目的」を欠くので、本罪には当たらず、本罪は成立しません。。

 幇助する目的は、刑法65条(身分犯の共犯)の「身分」ではないと解されています。

「引渡し」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「引渡し」とは、

略取・誘拐され又は売買された者の支配を他の者に移転させること

をいいます。

「収受」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「収受」とは、

有償・無償を問わず、略取・誘拐され又は売買された者の交付を受けて自己の実力支配下に置くこと

をいいます。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を有償で取得すれば、人身売買罪刑法226条の2)が成立することになります。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を直接収受する場合のほか、収受者から更に収受する場合も「収受」に含みます。

「輸送」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「輸送」とは、

略取・誘拐され又は売買された者を特定の場所から他の場所へ移転させること

をいいます。

「蔵匿」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「蔵匿」とは、

略取・誘拐され又は売買された者の発見を妨げる場所を提供すること

をいいます。

 したがって、「蔵匿」は必ずしも略取・誘拐され又は売買された者を犯人自身の手元に置くことを要しません。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(明治44年7月28日)

 裁判所は、

  • 刑法第227条にいわゆる蔵匿とは、被拐取者にその発見を妨ぐべき場所を供給することを指称するものとす
  • 而して原判決に認めたる如く、被告AがBの被誘拐者なることを知りながら、被告Cらを幇助するため、旅館の投宿人名簿にBの住所、氏名、年齢を偽り記入し、同旅館に滞在せしめたるは、すなわち被誘拐者たるBの発見を妨げるため、詐欺の手段を用い、これに一定の場所を供給したるものにして、その行為が刑法第227条第1項の犯罪を構成するやもとより論なし

と判示しました。

「隠避」とは?

 刑法227条第2項の条文中にある「隠避」とは、

蔵匿以外の方法で、略取・誘拐され又は売買された者の発見を妨げる一切の行為

をいいます。

 隠避の例として、

  • 略取・誘拐された者を変装させること
  • 所在場所を偽装すること
  • 旅費を給したり自動車を提供すること

などが挙げられます。

拐取者の拐取目的を錯誤した場合

 拐取者の拐取目的を錯誤し、被拐取者の引渡しを受けた場合に、どの犯罪が成立するかの考え方は以下のとおりです。

 身の代金目的略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)を犯した者を幇助しようとしたが、実はその者が営利・わいせつ等略取・誘拐罪刑法225条)の犯人であったような場合には、刑法227条第2項(身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し罪)ではなく、営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪刑法227条1項)が成立します。

共犯(身分犯の共犯)

 本罪の目的は、

第225条の2第1項(身の代金目的略取等)の罪を犯した者を幇助する目的

です。

 本罪の目的は、刑法65条(身分犯の共犯)にいう「身分」ではないと解されています。

 なので、本罪の目的を持たない者が本罪の行為に加担しても、刑法65条は適用されません。

既遂時期

 本罪は、

引渡し・収受・輸送・蔵匿・隠避によって略取・誘拐された者の自由侵害が更に持続され強化された時

に既遂となります。

 略取・誘拐され又は売買された者を自己の支配下に置くことについての約束だけで、まだ交付を受けていない場合には、収受の未遂となります。

 発見を妨げるべき場所を提供していないや、所定の場所へ連行中であるなどの場合には蔵匿の未遂となります。

 蔵匿以外の方法でその発見を免れるための行為をしたが隠避させ得なかった場合には、隠避の未遂となります。

罪数、他罪との関係

1⃣ 同時に数人を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させた場合は、

  1. 身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し罪
  2. 身の代金拐取幇助目的被略取者等収受罪
  3. 身の代金拐取幇助目的被略取者等輸送罪
  4. 身の代金拐取幇助目的被略取者等蔵匿罪
  5. 身の代金拐取幇助目的被略取者等隠避罪

の各罪は観念的競合になります。

2⃣ 略取・誘拐された同一の者に対し、引渡し、収受、輸送、蔵匿、隠避の行為のうち2つ又は3つに当たる行為をした場合には、上記①~⑤の罪は包括一罪となります。

3⃣ 身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)の教唆者も本罪を犯し得ます。

 この場合、「身の代金略取・誘拐罪の教唆罪」と「本罪」とは併合罪になると考えられます。

4⃣ 営利やわいせつ目的(刑法225条)と身の代金目的(刑法225条の2第1項)の両方の目的を持って略取・誘拐した犯人を幇助する目的で蔵匿等をしたような場合には、「営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪」(刑法227条第1項)は、同罪よりも法定刑の重い「身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し等罪」(刑法227条2項)に包括され、「身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し等罪」のみが成立します。

5⃣ 「身の代金拐取幇助目的被略取者等収受罪」(刑法227条2項)と「収受者身の代金取得・要求罪(刑法227条4項後段)との関係については、

  • 「身の代金拐取幇助目的被略取者等収受罪」が「収受者身の代金取得・要求罪」に吸収されるとする見解
  • 牽連犯とする見解
  • 併合罪とする見解

に分かれています。

6⃣ 本罪を犯した者が、本罪の本犯である身の代金要求行為に加担したときは、「拐取者身の代金要求罪」(刑法225条の2第2項)の共犯となり、本罪は「拐取者身の代金要求罪」に吸収され、「拐取者身の代金要求罪」のみが成立します。

公訴提起前に被害者を解放した場合は刑が減軽される

 本罪は、刑法228条の2(解放による刑の減軽)の適用があり、公訴提起前に被害者を解放した場合は、必ず刑が減軽されます(詳しい説明は前の記事参照)。

次の記事へ

略取、誘拐、人身売買の罪の記事一覧