刑法(被略取者引渡し等の罪)

被略取者引渡し等の罪(7) ~刑法227条4項前段の罪「身の代金被拐取者収受罪とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法227条の罪のうち、第4項前段の

  • 身の代金被拐取者収受罪

を説明します。

 この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。

身の代金被拐取者収受罪とは?

 本罪は、刑法227条第4項前段に規定があり、

第225条の2第1項(身の代金目的略取等)の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、2年以上の懲役に処する

と規定されます。

 本罪は、身の代金目的で略取・誘拐された者を収受する行為を処罰するものです。

※ 略取・誘拐の意義については前の記事参照

主体(犯人)

 本罪の主体(犯人)から、

  1. 未成年者略取・誘拐罪刑法224条
  2. 営利等略取・誘拐罪刑法225条
  3. 身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項
  4. 所在国外移送略取・誘拐罪刑法226条
  5. 人身売買の罪刑法226条の2
  6. 略取者等所在国外移送罪刑法226条の3

正犯は除外されるとする見解があります。

 それ以外に本罪の主体(犯人)に制限はありません。

客体(被害者)

 本罪の客体(被害者)は、どの略取・誘拐罪によるものであれ、

略取され又は誘拐された者

です。

本罪の行為

 本罪の行為は、

身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)の目的(近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的)で、略取・誘拐された者を収受すること

です。

 本罪の目的(身の代金略取・誘拐罪の目的(近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的))には、

  • 略取・誘拐された者を解放する代償として財物を交付させる目的
  • 略取・誘拐された者の生命・身体に危害を加えないことの代償として財物を交付させる目的

も含まれます(上記目的の意味の説明は身の代金略取・誘拐・拐取罪(2)の記事参照)。

 本罪の目的は刑法65条(身分犯の共犯)にいう「身分」ではないと解されています。

「収受」とは?

 本罪(刑法227条第4項前段)の「収受」とは、

有償・無償を問わず、略取・誘拐され又は売買された者の交付を受けて自己の実力支配下に置くこと

をいいます。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を有償で取得すれば、人身売買罪刑法226条の2)が成立することになります。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を直接収受する場合のほか、収受者から更に収受する場合も「収受」に含みます。

収受の対象者の属性の認識の錯誤は、本罪の成立に影響を及ぼさない

 本罪が成立するためには、犯人において、

収受の対象が略取・誘拐された者であることの認識

があれば足ります。

 なので、略取・誘拐された者が、

に関する認識の錯誤は、本罪の成立に影響を及ぼしません。

共犯(身分犯)

 本罪の目的(身の代金略取・誘拐罪の目的(近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的))は、刑法65条(身分犯の共犯)にいう「身分」ではないと解されているので、本罪の目的を持たない者が本項の行為に加担しても、刑法65条は適用されません。

既遂時期

 本罪(刑法227条第4項前段)は、

収受によって略取・誘拐された者の自由侵害が更に持続され強化された時

既遂となります。

 略取・誘拐され又は売買された者を自己の支配下に置くことについての約束だけで、まだ「身の代金略取・誘拐罪の目的で、略取され又は誘拐された者」の交付を受けていない場合には、本罪の未遂(刑法228条)となります。

罪数、他罪との関係

1⃣ 同時に数人を収受した場合は、本罪は観念的競合になります。

2⃣ 身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項)の教唆者も本罪を犯し得ます。

 この場合、「身の代金略取・誘拐罪罪の教唆罪」と「本罪」とは併合罪になると考えられます。

4⃣ 「本項の目的」(身の代金略取・誘拐罪の目的(近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的))と「営利、わいせつ、生命若しくは身体に対する加害の目的」(刑法227条第3項)とが併存する場合には、「営利被略取者等引渡し等罪」(刑法227条第3項)は本罪に包括して評価され、本罪のみが成立します。

5⃣ 本罪と「収受者身の代金要求罪」(刑法227条第4項後段)との関係については、

に分かれています。

公訴提起前に被害者を解放した場合は刑が減軽される

 本罪は、刑法228条の2(解放による刑の減軽)の適用があり、公訴提起前に被害者を解放した場合は、必ず刑が減軽されます(詳しい説明は前の記事参照)。

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