刑法(公用文書等毀棄罪)

公用文書等毀棄罪(4) ~「文書の毀棄とは?」「文書の毀棄と変造の区別」「文書の隠匿は毀棄の一態様である」「電磁的記録の毀棄」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、公用文書毀棄罪、公電磁的記録毀棄罪(刑法258条)を「本罪」と言って説明します。

文書の毀棄とは?

 本罪は、刑法258条に規定があり、

公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する

と規定されます。

 本罪における「文書の毀棄」とは、

当該文書の効用を滅却又は減損させること

をいいます。

 毀棄の具体的な態様について、参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(明治44年8月15日)

 文書の実質的部分を毀棄する行為のみならず、文書の形式的部分を毀損する行為も毀棄に含まれるとして、公正証書に貼付されている印紙剥離する行為について、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

大審院判決(大正11年1月27日)

 連名文書の署名抹消行為について、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和32年1月29日)

 弁解録取書(逮捕された被疑者が、警察官や検察官に対して、逮捕された事実について弁解した内容を、警察官や検察官が記載して作成した書面)を両手で丸めしわくちゃにした上、床の上に投げ棄てる行為について、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和38年12月24日)

 日本国有鉄道の駅職員が列車の遅延、運転中止を告げ、これを詫びる旨白墨で記載して駅待合室に掲示した急告板を勝手に取りはずし、その記載文言を黒板拭きで全部抹消した行為について、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

文書の毀棄と変造の区別

 文書の内容の一部又はその署名を抹消することは文書の毀棄に該当しますが、その抹消した部分に他の記入をするときは、もはや文書の毀棄の範囲を超えて文書の偽造・変造の罪の問題となります。

 また、文書の偽造・変造罪が成立するためには、他人名義の文書に限られることがその構成要件上の制約なので、債務者が債権者に交付していた証書のような

自己名義の文書の内容を無断で改変するのは毀棄になる

と解するのが判例です。

大審院判決(大正10年9月24日)

 村役場書記が自己名義の退職届の期日を改ざんしたのは、公文書変造ではなく私文書たる公用文書毀棄に当たるとしています。

神戸地裁判決(平成3年9月19日)

 公立高校の教職員が、入試答案の解答欄の原記載を消しゴムで消去して鉛筆で正解を記入した行為について、裁判官は、

  • 解答用紙は受験生を作成名義人とする有印私文書(受験番号の記入を「署名」と解する)偽造罪が成立すると同時に、公立高校への入学の可否が決せられるまでの間、同校内に保管されているものであるから、「公務所の用に供する文書」に当たることは明らかであり、上記所為は、公用文書としての右解答用紙の効用を減却するものと解せざるを得ないから、公用文書毀棄罪が別個に成立する

と判示しました。

文書の隠匿は毀棄の一態様である

 文書を隠匿することも当該文書の毀棄になるのか否かについては、通説は、不法領得の意思なしに文書を隠匿することは、毀棄罪を構成すると積極に解しています。

 判例・裁判例も、隠匿は毀棄の一態様と位置付けています。

大審院判決(昭和9年12月22日)

 競売裁判所が使用中の競売事件記録を当該競売期日に同裁判所から持ち出して隠匿し、そのために当日競売をすることができなくした行為について、裁判所は

  • 文書の毀棄とは必ずしも文書を有形的に毀損する場合のみならず、無形的に一時その文書を利用することわざる状態に置きたる場合をも指称する

と判示し、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和28年6月3日)

 村役場の保管する住民登録届綴中の届書をその綴り目の部分から破り取って持ち去った行為について、裁判所は、

  • 不正領得の意思なく公務所の用に供する文書をその管理者の意に反して持ち去った以上は、当該公務所をしてその文書を利用することのできぬ状態に置いたものであって、刑法258条にいわゆる「毀棄」に該当するものといわなけれぱならない

と判示するとともに、このように公務所の利用を妨げた事実があれば

  • その期間の一時的であると永続的であると、また後日返還の意思あると否とはなんら同罪の成否に影響しないと解すべきである

と判示し、公用文書毀棄罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和44年5月1日)

 裁判所は、

  • 文書を毀棄したというためには、必ずしもこれを有形的に毀損することを要せず隠匿その他の方法によって、その文書を利用することができない状態におくことをもって足る

と判示しました。

 この判例は、私用文書毀棄罪(刑法259条)に関するものですが、考え方は本罪にも適用できます。

 この判例は、隠匿も毀棄の一態様であることを明確に肯定しただけでなく、厳密な意味では隠匿とまではいえない場合でも、被害者の利用を不可能にする状況を生じさせれば、毀棄罪の成立を認めうるとしている点が注目されています。

電磁的記録の毀棄

 電磁的記録の毀棄も、上記の文書の毀棄と同様に考えます。

 電磁的記録の毀棄の行為として、

  • 電磁的記録の存する記録媒体を破損したり切断したりするなどの物理的な破壊行為
  • 電磁的記録の全部又は一部を消去する行為
  • 電磁的記録の存する記録媒体の隠匿という無形的方法によりその利用を妨げる行為

が挙げられます。

 なお、電磁的記録の一部を消去するような行為が、

  • 毀棄罪として本罪(公電磁的記録毀棄罪)を成立させるか
  • 刑法161条の2の公電磁的記録不正作出罪を成立させるか

については、文書における場合と同様に、単に記録としての効用を毀損したにとどまるのか、それとも、新たに証明力を生じさせたのかによって決せられることになります。

 また、電磁的記録の損壊が当該電子計算機の動作阻害という結果を発生させた場合には、刑法234条の2の電子計算機損壊等業務妨害罪が別に成立することになります。

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