前回の記事の続きです。
この記事では、虚偽診断書作成罪、虚偽検案書作成罪、虚偽死亡証書作成罪(刑法160条)を適宜「本罪」といって説明します。
他罪との関係
本罪と
- 虚偽診断書行使罪、虚偽検案書行使罪、虚偽死亡証書行使罪(刑法161条)※ 以下、虚偽診断書等行使罪といいます
- 医師法違反(医師法33条の3第1号・20条:診断せずに診断書等を作成)
との関係を説明します。
① 虚偽診断書等行使罪との関係
診断書、検案書、死亡証書に虚偽の記載をした医師が、その行使罪を犯せば、「本罪」と「虚偽診断書等行使罪」とは、原因とその結果との関係が認められるので、牽連犯となります。
②医師法違反(診断せずに診断書等を作成)
医師が自ら診察しないで診断書を作成し、診断の内容に関する虚偽の記載をして交付したときは、「虚偽診断書作成罪」と「医師法違反(医師法33条の3第1号・20条」とは観念的競合(刑法54条1項前段)の関係になります。
この点を判示した以下の判例・裁判例があります。
大審院判決(大正5年1月27日)
裁判所は、
- 医師が自ら診察せざるにかかわらず、診断書を作成し、診断書の内容に関する虚偽の記載をなしてこれを交付したるときは、1個の行為にして2個の罪名に触れるるものとし、刑法第54条第1項前段により処断すべきものとす
と判示し、虚偽診断書作成罪と医師法違反は観念的競合の関係になるとしました。
福岡高裁宮崎支部判決(平成元年3月14日)
裁判官は、
- 虚偽診断書作成罪は医師が公務所に提出すべき診断書等に虚偽の記載をしたときに成立するものであり、また自ら診察しないで診断書を交付した医師法違反の罪はその所為をもって成立するところ、自ら診察しないで診断書を作成することはそれ自体診断書の内容に虚偽を記載することにもなるのであるから、上記は1個の行為で2個の罪名に触れるものであって、刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合の関係にあると解するのが相当である
と判示し、虚偽診断書作成罪と医師法違反の罪とが観念的競合の関係にあるとしました。