前回の記事の続きです。
賭博の反覆累行の事実による常習性の認定の考え方
常習賭博罪(刑法186条1項)の常習性認定の考え方は、
- 賭博前科による常習性の認定の考え方
- 賭博の反覆累行の事実による常習性の認定の考え方
- 賭博の態様による常習性の認定の考え方
に分けることができます。
この記事では、賭博の反覆累行の事実による常習性の認定の考え方を説明します。
賭博の反覆累行と常習性の関係
現に審判の対象となっている賭博行為の反覆累行の事実も常習賭博罪(刑法186条1項)の常習性を認定する際の一資料となります。
過去における賭博の反覆累行の事実がなくても、本件自体の反覆累行の事実のみによって常習性を認定することは可能であるとされます。
ただし、単に賭博行為を反覆累行すること自体はそれが常習性の発現に至らない限り常習賭博罪を構成するものではなく、逆に、常習性の発現が認められる限りたとえ1回の賭博行為であっても常習賭博罪を構成するものとされています。
この点に関する以下の判例・裁判例があります。
大審院判決(大正3年10月7日)
裁判所は、
- 一定の期間において、しばしば賭博を為しある事実ある以上は、これによりて被告に賭博の習癖あることを推定するに足るものにして
と判示しました。
大審院判決(大正7年11月6日)
裁判所は、
- 賭博を数次繰り返へしたる事実あればとて必ずしも賭博常習を認むるを要せざるも、またかかる事実に基づき常習賭博を認むることを得ざるにものにあらず
- 而して、そのいずれに属するやは、その賭博行為を繰り返へしたる度数の多少等によりこれを判定するを得べく
と判示しました。
大審院判決(大正14年3月18日)
裁判所は、
- 賭博の常習とは、賭博を為す習癖をいうに在るをもって、必ずしも賭博行為を慣習的に繰り返すを要するものにあらずといえども、そのこれを反覆累行することはまたもって常習を認定する重要なる資料たること少なしとせず
と判示しました。
大審院判決(昭和6年2月9日)
裁判所は、
- 犯人が賭博行為を数次反覆して行うにより賭博を為す習癖が発現するに至りたるときは常習賭博罪成立すること当院判例の説示するところにして
と判示しました。
大審院判決(大正12年3月29日)
裁判所は、
- 賭博常習たることを認むるには、必ずしも既往に賭博累行の事実あることを要せず
- 現に賭博を反覆累行したる事実あるときは、これによりて常習の事実を認定するも妨げなし
と判示しました。
大審院判決(大正4年9月16日)
裁判所は、
- 賭博の常習あるものが賭博を為したるときは、その回数の如何にかかわらず常習賭博としてこれを処罰すべく、これに反して賭博の常習なき者が賭博を為したるときは、たとえその行為は数個にして意思継続にしてこれを為したるものなりといえども、常習賭博としてこれを処罰すべきものにあらず
と判示しました。
大審院判決(昭和5年2月21日)
裁判所は、
- かねてその常習ある者が新に賭博を為すか又は常習なき者が賭博行為を数次反復して行うにより賭博を為す習癖が発現するに至りたるときは、常習賭博罪が成立するものとす
- 換言すれば、賭博行為を数次反覆することは、客観的に賭博の累行たることはもちろんなれども、なお主観的に賭博を為す習癖の成立を認めるを得るときにおいて常習賭博罪は成立するものとす
- 故に、所犯情状如何により同一回数の賭博行為にして、場合により、あるいは普通賭博罪の連続犯たることあるべく、あるいは常習賭博罪たることあるべきは疑いを容れず
と判示しました。
大審院判決(大正7年11月6日)
裁判所は、
- 賭博を数次繰返へしたる事実あればとて必ずしも賭博常習を認むるを要せざるも、またかかる事実に基づき常習賭博を認むることを得ざるにものにあらず
- 而して、そのいずれに属するやは、その賭博行為を繰返えしたる度数の多少等によりこれを判定するを得べく
と判示しました。
大審院判決(大正10年1月22日)
裁判所は、
- 犯人が数回反覆して賭博行為を為したる場合に(イ)その行為が単一意思の発動に基づきたる連続行為たるにとどまり、犯人が賭博を為す習癖の発現せざるときは、常習賭博犯を構成せざるものなれども、(ロ)その行為により犯人の賭博を為す習癖が発現するに至りたるときは、すなわちその行為は、常習賭博犯を構成するものにして、その犯人が賭博常習なることは言を竣たず
- 要するに、常習賭博犯の成立には、犯人が賭博行為を累次反覆することにより、ついに賭博を為す習癖が発現するに至るをもって足り、各別の意思に基づく賭博行為を数回反覆することを必要とするものにあらず
と判示しました。
大審院判決(大正14年12月21日)
裁判所は、
と判示しました。
大阪高裁判決(昭和24年10月12日)
裁判所は、
と判示しました。
東京高裁判決(昭和32年11月25日)
裁判所は、
- 苟くも賭博常習の習癖の発現ありと認められる行為あるにおいては、ただ1回の賭博行為についても常習賭博の罪の成立あるを免れない
と判示しました。
大阪高裁判決(昭和49年9月27日)
裁判所は、
- 習癖の発現とみられる限りはただ1回の賭博行為であっても本罪(※常習賭博罪)を構成するけれども、習癖の発現とみなされない単なる賭博行為が数回行われたというだけでは本罪にあたらない
と判示しました。
賭博行為の反覆累行の期間と常習性の認定の考え方
賭博行為の反覆累行の期間が長期にわたるものでなくとも、常習性を認定することは可能であるとされます。
大審院判決(昭和8年7月5日)
賭博行為の反覆累行の期間が3日間の事案で、常習賭博罪の成立を認めた事例です。
裁判所は、
- 犯人が習癖的に数個の賭博行為を反覆したるときは常習賭博罪成立し、その賭博を為す期間は必ずしも比較的長期にわたることを要するものに非ず」(3 日間の事案)).
と判示しました。
常習賭博罪の常習性を認定するに当たり、その反覆累行に係る賭博行為に意思の継続は要しない
賭博行為の反覆累行を資料とし、常習賭博罪の常習性を認定する場合において、その反覆累行に係る賭博行為に意思の継続は要しないとされます。
大審院判決(大正6年5月23日)
裁判所は、
- 連続の意思の有無を問わず、数回賭博行為を繰り返したるときは、これをもって常習として賭博を為したるものと認定するも不法にあらず
と判示しました。
大審院判決(大正6年11月8日)
裁判所は、
- 刑法第186条第1項の常習賭博罪の成立するには、賭博行為を習癖として実行することを要し、その習癖が改まざる限りは、同一意志の発動により賭博行為を反覆したる場合なると、個々の意志に出て数回実行したる場合なるとを区別することなく、同じく常習賭博罪をもって処断すべきものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和7年11月26日)
裁判所は、
- 常習賭博罪は、賭博の習癖ある者がその習癖の発現として賭博行為を為すにより成立し、その本質は、一種の慣行犯をもってみるべく、もとよりその成立に意思の継続を必要とせざるが故に、意思継続してその行為を数回したるときといえども、1個の集合犯を構成するに過ぎず、これを連続犯として論ずべきものに非ず
と判示しました。
賭博の反覆累行の事実を資料として常習賭博罪の常習性を認定した判例・裁判例
賭博の反覆累行の事実を資料として常習賭博罪の常習性を認定した判例・裁判例として、以下のものがあります。
① 約4か月間にしばしば(大審院判決 大正3年10月7日)
② 約5か月間に数回(大審院判決 大正6年11月8日)
③ 約1年8か月間に数十回(大阪控訴院判決 大正14年3月10日)
④ 複雑な形態の賭博であることも考慮し、5日間連続(大審院判決 大正14年3月18日)
⑤ 約4か月間に9回の骨子・花札賭博(大審院判決 昭和3年10月26日)
⑥ 約1年から1年数か月間に10~30回の骨牌賭博(大審院判決 昭和6年2月9日)
⑦ 胴元となったことも考慮し、3日間にわたり数回のチーハー賭博(大審院判決 昭和8年7月5日)
⑧ 約半年間に20回以上(大審院判決 昭和11年3月19日)
⑨ 約2か月半の間に28回の相撲賭博(大審院判決 昭和14年11月20日)
⑩ 20~30数回(大審院判決 昭和17年1月26日)
裁判所は、
- 原判示によれば、被告人らは、それぞれ所論の前科あるにかかわらず、判示期間内に被告人Xは30数回、被告人Yは20数回にわたり、それぞれ判示賭博を反覆累行したりというにあるをもって、右前科の事実と本案賭博の犯情とに鑑み、被告人らに賭博の常習性あることを推断するに難しからず
と判示しました。
⑪ 6回(最高裁判決 昭和24年11月17日)
裁判所は、
- 原判決が判示賭博のほか5回にわたりいずれも同種の賭博を累行した事実に徴し常習を認定したことは経験則に照らし肯認し得る
と判示しました。
⑫ 約3か月間に3回の花札賭博(最高裁判決 昭和25年10月6日)
裁判所は、
- 原判決は被告人Xが原判示(中略)の賭博を反覆してした事実によってその常習性を認定したものでその認定は何ら実験法則に違反するものではない
と判示しました。
⑬ 1回の賭金が数千円から3万円であることも考慮し、20日間連日(東京高裁判決 昭和32年1月17日)
⑭ 約1か月間に5回でその都度100回前後(東京高裁判決 昭和38年9月5日)
⑮ 約7か月間にわたり連日(大阪高裁判決 昭和40年4月27日)
⑯ 約70余日の間に1500回以上(東京高裁判決 昭和49年4月17日)
賭博の反覆累行の事実を資料として常習賭博罪の常習性を否定した判例・裁判例
常習性が否定されたものとして、以下の判例・裁判例があります。
① 1回のみ(大審院判決 大正3年4月6日)
② 1日2回(大審院判決 大正10年2月26日)
③ 約1時間半に12~13回(大阪高裁判決 昭和49年9月27日)