前回の記事の続きです。
常習賭博罪における「常習性」は刑法上の「身分」である
常習賭博罪(刑法186条1項)における常習性は、刑法上の身分です。
この点を判示したのが以下の判例です。
最高裁判決(昭和26年8月1日)、最高裁判決(昭和37年4月24日)
裁判所は、
- 賭博常習者というのは、賭博を反復する習癖、すなわち犯罪者の属性による刑法上の身分である
と判示しました。
常習賭博罪と刑法65条適用の考え方
賭博の常習者と非常習者が共犯関係にある場合の刑法65条の適用に関し、判例は、
常習性という身分を有しない者が賭博行為を行ったときにも単純賭博罪(刑法185条)が成立することから、常習性の有無は、犯罪の成否とは直接の関係がなく、刑の軽重に影響を及ぼすにすぎず、したがって、常習賭博罪は刑法65条1項の「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」ではなく、刑法65条2項の「身分によって特に刑の軽重あるとき」にあたる
としています。
大審院判決(大正2年3月18日)
裁判所は、
- 刑法第65条第1項は、犯人の身分をもって構成要件とせる犯罪に加功したるものは、その身分あらざるも、その身分あるものの共犯として処罰する事を規定したるものにして、犯人の身分をもってその構成要件とせず、単に刑の軽重の原因とせる犯罪については何ら関係なき条項なれば、本件被告X、同Yの如く、賭博の常習なき者が賭博常習者の犯罪を幇助したる場合においては、同条項はこれを適用すべきものに非ず
と判示しました。
大審院判決(大正3年5月18日)
裁判所は、
- 刑法第186条第1項は、同法第185条通常賭博罪の加重規定にして、その加重は、賭博を反覆する習癖を有する者に限り、その実行正犯たる他人に影響を及ぼさざる点より観察して、これを犯人の一身に属する特殊状態によるものと認むべく、従って犯人の身分による加重なりと解すべきものとす
と判示しました。
大審院判決(大正12年2月22日)
裁判所は、
と判示しました。
常習者と非常習者の共同正犯
常習者と非常習者が共同して賭博を行った場合について、判例は、前者には単純賭博罪(刑法185条)が、後者には常習賭博罪(刑法186条1項)が、それぞれ成立するとします。
大審院判決(大正3年5月18日)
裁判所は、
- 数人共に賭博を為したる場合に、一人に対しては前述イの場合(注:既に賭博を反覆する習癖を有する者が新たに1回又は数回賭博をなすことにより常習賭博の罪名に触れる場合)に該当するにより、刑法第186条第1項の犯罪が成立し、他の者に対しては、単に同法第185条の犯罪が成立することあるべきは説示を要せずして明白の事実に属し、また共犯者が皆前述ロの場合(注:初めて賭博をなす者が数次反覆して賭博をなすことにより新たにその習癖が発現するにいたり幾個の賭博行為が包括により1個の常習賭博の罪名に触れる場合)に該当するときは、共に常習賭博罪の罪名に触るるに至るも、これたまたま共犯の主観的並びに客観的の条件が全て同一なるがため、賭博の常習性を有するに至りたるに過ぎず、この場合においても数個の賭博行為中、その内一部のみにつき共に犯したる者に対しては常習賭博罪の成立するを妨げず
と判示しました。