前回の記事の続きです。
賭博の常習者が非常習者に加功した場合、常習者に対し、常習賭博罪の教唆又は幇助が成立する
非常習者の賭博行為に常習者が加功した場合(教唆・幇助した場合)について、判例は、常習者に対し、常習賭博罪(刑法186条1項)の教唆又は幇助が成立するとします。
大審院判決(大正3年5月18日)
裁判所は、
- 賭博に関しては、その実行正犯たると教唆犯若しくは従犯(※幇助犯)たるとの別なく、ひろくこれらの賭博行為につき、これを為すを常習とする者が、その実行正犯たり教唆犯若しくは従犯たる場合並びに如上の賭博行為を為すにより、反復して賭博を為す習癖が発現するに至りたる場合は、皆同法第186条第1項の適用を免れざるものとす
- 従って、二人共に賭博を為し、一人に対しては常習賭博罪が成立し、他の一人に対しては通常賭博罪が成立する場合に、その従犯が犯罪の当時賭博の常習を有するにおいては、(従来賭博の常習ありたるとその従犯たる行為を為すによりて初めてその習癖が成立したるとを問わず)その者にしては刑法第65条第2項の趣旨により同法第186条第1項を適用したる上、一般従犯に関する軽減をなすべきものとす
とし、常習者Xが、常習者Y及び非常習者Zの賭博行為を幇助した事案につき、原判決が、Yに常習賭博罪、Zに単純賭博罪が成立するとした上で、Xに刑法186条1項(常習賭博罪)、刑法62条1項等を適用したのは、刑法65条2項の趣旨に則ったものであると判示しました。
大審院判決(大正7年6月17日)
裁判所は、
- 幇助行為者自身が賭博常習者なると否とにより、刑法第186条第1項若しくは第185条の刑に照らして処断すべきものなると同時に、その見張の教唆者もまた刑法第65条第2項により教唆者自身が常習なると然らざるとに応じて右第186条第1項若しくは第185条の刑を軽減して処断すべきものとす
と判示しました。
大審院判決(大正12年2月22日)
裁判所は、
- 賭博犯を幇助する者は、賭博行為に加功するものにして、すなわち賭博行為を為すにほかならざれば、その賭博犯を反覆幇助するの習癖ある者は賭博の常習者なりとす
- 故にその賭博犯を幇助したる者あるときは、その幇助行為自身が賭博常習者なると否とにより、刑法第65条第2項に基づき、同第186条第1項又は同第185条に照して処断すべきものといわざるべからず
- 蓋し、右第186条第1項は、同第185条の通常賭博罪の加重規定にして、その加重は犯人の身分に関する加重なりと解すべきものなれば、その賭博犯の幇助行為を処断するにあってもまた犯人に加重原因たる身分あると否とにより、自ら法の適用を異にせざるを得ざれば、原判示によれば被告Xは、被告Yの判示第一、第ニの賭博行為を常習として幇助したるものにして、その事実は同被告が判示幇助行為を反覆累行したる事跡に徴してこれを認むることを得べし
- 故に、原判決が同被告に対して判示事実を認め、これを刑法第186条第1項、第62条第1項、第63条、第68条第3号に問擬(もんぎ)したるは正当なり
と判示しました。
名古屋高裁判決(昭和30年5月17日)
裁判所は、
- 賭博幇助を処罰するに当たっては、本犯が賭博の非常習者として単純賭博とせられる場合でも、幇助者が賭博常習者と認められる限り、常習賭博幇助として処断すべきもので(大審院大正12年2月22日判決、同判例集第2巻107頁)、被告人Xが賭博常習者であることはその賭博の前歴及び本件犯行に加担の状況から見て明らかであるから、同被告人の本件見張をもって常習賭博幇助とした認定にも何ら誤りはない
と判示しました。