前回の記事の続きです。
常習賭博罪の罪数の考え方
常習性ある者の数個の賭博行為は包括して1個の常習賭博罪を構成する
常習性ある者の数個の賭博行為は包括して単純な一罪を構成し、1個の常習賭博罪(刑法186条1項)が成立します。
常習性ある者の数個の賭博行為はそれぞれの行為が独立して常習賭博罪を構成し、各常習賭博罪が併合罪になるものではありません。
この点に関する以下の判例・裁判例があります。
大審院判決(明治44年1月24日)
裁判所は、
- 賭博の常習あるものが賭博をなしたるときは、その賭博の行為が数回にわたる場合といえども包括的にこれを観察し、一罪として刑法第186条第1項を適用すべく、その各個々の行為をもって別個独立のものとして各別に法条を適用し併合罪として処断すべきものにあらず
と判示しました。
大審院判決(明治44年2月16日)
裁判所は、
- 連続して数同賭博を為すも常習として為したる以上は、その連続せる数個の賭博行為は集合して1個の常習として賭博をなしたる犯罪を構成するをもって単に刑法第186条第1項を適用すべきものにして同法第55条(※刑法55条(連続犯)は現在は廃止)を適用すべきものにあらず
と判示しました。
大審院判決(大正3年12月18日)
裁判所は、
- 習癖として賭博行為を反覆する者はその反覆したる行為の数の如何に関わらずこれを刑法第186条第1項の一罪として処断する法意なるをもって同条項の罪を組成するに、以上の賭博行為の間に併合罪若しくは連続犯の関係あるべきの理なし
と判示しました。
裁判所は、
- 賭博常習の罪は反覆累行した数個の賭博行為をそれぞれ独立の一罪とするのでなく、包括して賭博常習罪の一罪とする
と判示しました。
裁判所は、
- 常習賭博罪における数個の賭博行為は、包括して単純な一罪を構成する
と判示しました。
仙台高裁判決(昭和40年4月15日)
裁判所は、
- 常習賭博における数個の賭博行為は、包括して単純な一罪を構成するものと解すべきものである
- 従って、原判決は、(中略)各賭博行為をいずれも包括して常習賭博罪の一罪として処断すべきであるのに、前示のとおり右各被告人の各賭博行為はそれぞれ常習賭博罪に該当し、これが刑法第45条前段の併合罪の関係にあるものとして、その最も犯情の重い罪の刑に併合罪の加重をなし量刑処断したのは、法令の解釈適用を誤ったもの
と判示しました。
仙台高裁判決(昭和41年8月4日)
裁判所は、
- 常習賭博罪における数個の賭博行為はこれを包括して単純な一罪を構成するものと解するのが相当であるから、右(中略)各賭博行為をそれぞれ常習賭博罪に該当し、これを併合罪とした原判決は法律の解釈適用を誤ったもの
と判示しました。
東京高裁判決(昭和55年1月24日)
裁判所は、
- 原判決は被告人の原判示(中略)の罪がそれぞれ刑法186条1項に当るとした上、これらが併合罪の関係にあるとして同法45条前段、47条本文、10条を適用して処断しているところ、常習賭博罪における数個の賭博行為は包括して単純な一罪を構成するものと解すべきであるから、右の法令の適用は誤りというべきである
と判示しました。
裁判所は、
- 刑法186条1項の常習賭博罪は、賭博を反覆する習癖を有する者がその習癖の発現として賭博を行うことによって成立するものであり、右の規定は、賭博の習癖の発現として賭博を行った者を加重処罰するものであるから、習癖の発現として数個の賭博が行われた場合には、併合罪加重罰の必要はなく、これを1回的に処断すれば足り、通常、その数個の賭博行為が包括的に評価されて常習賭博罪の1罪を構成することになるものと解される
と判示しました。
常習賭博罪が成立する以上、意思の連続の有無にかかわらず数個の賭博行為は包括して一罪となる
常習賭博罪の成立には数個の賭博行為が同一意思の発動として行われたことを要しないので、常習賭博罪が成立する以上、意思の継続の有無にかかわらず包括して単純な一罪となります。
この点に関する以下の判例・裁判例があります。
大審院判決(昭和7年11月26日)
裁判所は、
- 常習賭博罪は賭博の習癖有る者がその習癖の発現として賭博行為を為すにより成立し、その本質は一種の慣行犯をもってみるべく、もとよりその成立に意思に継続を必要とせざるが故に意思継続してその行為を数回したるときといえども1個の集合犯を構成するに過ぎず、これを連続犯として論ずべきものに非ず
と判示しました。
札幌高裁判決(昭和26年11月12日)
裁判所は、
- 原判決は右判示第1、2の所為をそれぞれ1個の常習賭博と解し刑法第45条前段の併合罪の規定を適用している
- しかし常習賭博である以上、同一意思の発動により賭博行為を反覆した場合であると、個々の意思に出で数回に賭博を実行した場合であるとを問わず、同じく1個の常習賭博罪をもって処断すべきものであるのにかかわらず原判決はこれに反し前述のように2個の常習賭博罪と認定したのは法令の適用を誤ったもの
と判示しました。
店舗に遊技機を設置しての常習賭博罪の罪数の考え方
店舗に遊技機を設置して客を相手に賭博を行う事案について、遊技機を設置した場所、遊技機の種類、賭博の態様、営業継続期間が特定され、かつその期間中に多数の賭客が右の遊技機を使用して賭博をした事実が明らかにされれば、それ以上に個々の賭博行為について個々の客ごとにその存在や内容が明らかにされなくとも、右の範囲におけるすべての賭博行為についてこれを包括した1個の常習賭博罪が成立するとした判例があります。
裁判所は、
- 刑法186条1項の常習賭博罪は、賭博を反覆する習癖を有する者がその習癖の発現として賭博を行うことによって成立するものであり、右の規定は、賭博の習癖の発現として賭博を行った者を加重処罰するものであるから、習癖の発現として数個の賭博が行われた場合には併合罪加重罰の必要はなく、これを1回的に処断すれば足り、通常、その数個の賭博行為が包括的に評価されて常習賭博罪の一罪を構成することになるものと解される
- これを本件についてみると、前記認定のとおり、被告人は、多額の借金の返済に窮したため遊技機賭博により利益をあげることを意図し、3名ないし4名の従業員を雇い、多額の資金を投じて多数の遊技機を設置した遊技場を開設した上、警察に検挙されて営業の遂行が不可能になるまでの3か月余りの間、遊技賭博を営業として行い、不特定多数の賭客との間で継続的かつ反覆して右遊技機による賭博をし、1千万円を超える利益を得たものであって、以上の諸事情に照らすと、被告人は、賭博を反覆する習癖を有し、その習癖の発現として右の期間中多数の賭博をしたものというべく、その行為は常習賭博罪を構成することが明らかである(最高裁昭和54年10月26日決定・刑集33巻6 号665頁参照)
- そこで、本件における常習賭博罪成立の範囲について検討するに、常習賭博罪においても、処罰の対象となるのは個々の賭博行為であって、一般の賭博にあっては、個々の賭博行為は、相手方、日時、場所、方法、回数などを特定することにより個別的具体的に認定されるのが通常であるが、本件のような形態で行われる賭博については遊技場の経営者自身は、賭客が遊技機を用いて個々の賭博行為をするに際しその場に臨んで直接具体的行為をする必要はなく、経営者自身の実行行為として考えられるのは、遊技機を設置し、不特定多数の客がこれを使用できる状態にして営業を継続するだけであって、あとは客がその遊技機を使用して賭博行為をすれば、その都度自動的に、経営者がその賭客と賭博をしたという関係が成り立つにすぎないこと、他方、賭客の行うのは、遊技機を用いての定型的でかつ個性のない賭博行為であって、経営者としては、当初から、不特定多数の賭客によりそのような賭博行為が大量的に継続反覆されることを想定した上、これを対象に営業として賭博をしているものであるから、通常、その賭博行為を個別的に識別することは実際上行われておらず、また営業の性質上その必要性もないことなどの特殊性が存するため、個々の賭博行為のすべてを特定することは実際上必ずしも出来ないのであるから、それにもかかわらず常にその特定を要するとするならば、当該遊技場において一定期間内に遊技機を用いて多数の賭博が行われたことが明らかにされても、そのうち常習賭博罪により処罰し得るものの範囲が不当に狭く限定されるという結果になり、また、このような形態の賭博行為は、所論のようにこれを営業犯と解することの当否はしばらく措くとしても、事実上営業犯的側面を有することを否定できないものであるから、包括一罪、特に営業犯の法理に照らし、当該包括一罪を構成する個々の行為は必ずしも特定される必要はなく、その全体を明確にされればあとはある程度概括的事実の特定の仕方をすることも許されるものと解されることなどを考慮すると、最小限度、遊技機を設置した場所、遊技機の種類、賭博の態様、営業継続期間が特定され、かつその期間中に多数の賭客が右の遊技機を使用して賭博をした事実が明らかにされれば、それ以上に個々の賭博行為について個々の客ごとにその存在や内容が明らかにされなくとも、右の範囲におけるすべての賭博行為についてこれを包括した1個の常習賭博罪が成立するものと解するのが相当である
と判示しました。
裁判所は、
- 原判決は、罪となるべき事実として、被告人が賭博遊技機を設置した遊技場の所在地右遊技場の営業継続期間、遊技機の種類・台数、賭博の態様を摘示した上、被告人が「Aと共謀の上、右期間中、常習として、甲ほか不特定多数の賭客を相手とし、多数回にわたり、右遊技機を使用して賭博をした」旨判示している
- このように、多数の賭博遊技機を設置した遊技場を経営する者が、不特定多数の遊技客との賭博を反覆継続した場合につき、右遊技場の営業継続期間の全般にわたって行われた各賭博行為を包括した一個の常習賭博と認定する際は、右の程度の判示で常習賭博罪の罪となるべき事実の具体的摘示として欠けるところはない
と判示しました。
常習性の発現として行われた賭博幇助行為と常習賭博罪の罪数の考え方
同じ常習性の発現として行われた賭博幇助行為と常習賭博罪とは常習一罪の関係に立つとした裁判例があります。
大阪地裁判決(昭和58年3月17日)
裁判所は、
- 賭博用具を賃貸して賭博を幇助する場合のように、幇助行為が継続している場合は、幇助行為開始時点では常習性が認められない場合であっても、その後犯人が賭博の常習性を持つに至り、本犯成立時に引き続いて賃貸しているという幇助行為が、右常習性の発現と認められる限り常習賭博幇助罪が成立し、同じ常習性の発現として行なわれた常習賭博罪とは常習一罪の関係に立つものと解すべきである
と判示しました。