前回の記事の続きです。
「既に確定裁判ある賭博行為」と「その賭博行為の裁判確定後、後から発覚した過去の常習賭博行為」との関係
1⃣ 「確定裁判ある単純賭博罪(既に判決が出され、刑が確定している賭博罪)」と、「その判決後に後から明らかとなった過去の常習賭博行為」とがどのような関係に立つかが問題になります。
例えば、令和7年4月2日に実行した賭博行為について既に賭博罪で起訴されて裁判が確定していた場合において、後から令和7年3月5日にも賭博行為を行っていたことが発覚し、その賭博行為が令和7年4月2日に実行した賭博行為との関係で常習賭博罪を構成する場合に、令和7年3月5日の賭博行為が裁判でどのように扱われるかという問題です。
2⃣ この点、既に確定している略式命令に係る賭博行為と、その略式命令発付前の事案である賭博行為が1個の常習賭博罪を構成する場合は、その常習賭博罪は既に確定裁判あるものとした裁判例があります。
横浜地裁川崎支部判決(昭和49年9月25日)
裁判所は、
- 本件公訴にかかる賭博(注:常習賭博に係るもの)は右略式命令(注:単純賭博に係るもの)発付前の犯行であるから、本件公訴にかかる行為は右略式命令の対象たる行為とともに1個の常習賭博罪を構成すべきものであったといわざるを得ないところ、刑事訴訟法470条によれば昭和48年10月5日に確定した右略式命令は確定判決と同一の効力を有するものであるから本件公訴にかかる賭博についてはすでにその一部について確定裁判があったものというべきである
- よって被告人Xに対する本件公訴は同法337条1号に該当する
と判示し、公訴にかかる賭博行為はすでに確定判決を経たものとして免訴の判決を言い渡しました。
3⃣ 確定裁判が賭博幇助行為について存在する場合において、これと常習一罪の関係に立つ常習賭博罪について既に確定裁判あるものとした裁判例があります。
大阪地裁判決(昭和58年3月17日)
賭博常習者が、店舗の一部及び遊技機を賃貸して賭博を幇助し(常習賭博幇助罪)、他方、自らも残りの店舗部分で遊技機を使った賭博を行い(常習賭博罪)、常習賭博幇助罪については既に起訴されて裁判が確定していた事案です。
裁判所は、
- 賭博用具を賃貸して賭博を幇助する場合のように幇助行為が継続している場合は、幇助行為開始時点では常習性が認められない場合であっても、その後犯人が賭博の常習性を持つに至り、本犯成立時に引き続いて賃貸しているという幇助行為が、右常習性の発現と認められる限り常習賭博幇助罪が成立し、同じ常習性の発現として行なわれた常習賭博罪とは常習一罪の関係に立つものと解すべきである
- (中略)以上見てきたところから、被告人のAに対する賭博幇助行為は、賭博常習者の行為として常習賭博幇助罪が成立し、本件公訴にかかる常習賭博罪とは常習一罪の関係にあることになり、その一罪の一部である常習賭博幇助の部分についてすでに確定判決と同一の効力を有する略式命令があった以上、残りの一部である本件公訴のかかる常習賭博罪は、確定裁判を経たものとして刑事訴訟法337条1号により免訴の言渡をすべきものといえる
と判示しました。
単純賭博罪の裁判から確定までの間における常習賭博行為
判例は、単純賭博罪による略式命令発付後でその確定前までの間に更に犯した常習賭博行為がある場合、これらは刑法45条後段の併合罪であって、包括して1個の常習賭博罪とすることはできないとします。
例えば、令和4年4月2日に実行した賭博行為が略式起訴されて令和4年4月5日に略式命令が発付された場合で、その後、令和7年4月6日に新たに賭博行為を行い、その賭博行為が常習賭博罪と認定されて起訴された場合に、その常習賭博罪は、令和7年4月2日に実行した賭博行為とは別の賭博罪(常習賭博罪)として成立します。
令和4年4月2日に実行した賭博罪より前に行った賭博罪行為であれば包括して1個の常習賭博罪となりますが、令和4年4月2日に実行した賭博罪より後に行った賭博行為は、独立した常習賭博罪として成立するという考え方になります。
大審院判決(昭和18年12月24日)
裁判所は、
- 確定略式命令を経たる賭博行為と該略式命令発付後の賭博行為とは、これを包括して1個の常習賭博行為と為すを得ず
- 本件犯行と前記略式命令を経たる犯罪とは、まさに刑法第45条後段所定の併合罪に該当し、同法第50条により更に本件犯罪につき処断すべきものにして原審の措置はこれの見解に出でたるものなること明かなる
と判示しました。