刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(4)~「わいせつ物性はわいせつ物全体を考察して判断される」を説明

 前回の記事の続きです。

わいせつ物性はわいせつ物全体を考察して判断される

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)のわいせつ性判断の対象範囲について説明します。

 わいせつ性判断の対象範囲は、

  • わいせつ物のわいせつ性があるとされる部分だけではなく、その部分を含めた全体をわいせつ性判断の対象範囲

とすべきであって、

  • その部分のわいせつ性の有無も、文書全体との関連において判断されなければならない

とされ、わいせつ物のわいせつ性がある一部分だけではなく、わいせつ物を全体的に考察してわいせつ性を判断する方法をとるべきとされます。

 この点を判示したのが以下の判例・裁判例です。

最高裁決定(昭和44年10月15日)

 裁判所は、文書の部分についてのわいせつ性と文書全体との関係について、

  • 文書の個々の章句の部分は、全体としての文書の一部として意味をもつものであるから、その章句の部分のわいせつ性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならないものである
  • したがって、特定の章句の部分を取り出し、全体から切り離して、その部分だけについてわいせつ性の有無を判断するのは相当でないが、特定の章句の部分についてわいせつ性の有無が判断されている場合でも、その判断が文書全体との関連においてなされている以上、これを不当とする理由は存在しない

と判示し、わいせつ性があるとされる部分だけではなく、その部分を含めた全体をわいせつ性判断の対象範囲とすべきであって、その部分のわいせつ性の有無も、文書全体との関連において判断されなければならないとし、全体的考察方法をとるべきことを明らかにしました。

 さらに、以下の裁判例・判例で、わいせつ性判断の具体的基準が述べられています。

東京高裁判決(昭和54年3月20日)

 裁判所は、

  • 文字による記述のみからなる文書が刑法175条にいうわいせつのものとされるためには、性器又は性的行為の露骨かつ詳細な具体的描写叙述があり、その描写叙述が情緒、感覚あるいは官能にうったえる手法でなされているという二つの外的事実の存在することのほか、文書自体の客観的内容を全体としてみたときに、その支配的効果が好色的興味にうったえるものと評価され、かつ、その時代の社会通念上普通人の性欲を著しく刺激興奮させ性的羞恥心を害するいやらしいものと評価されるものであることを要する

と判示しました。

 さらに、この判決の控訴審判決である最高裁判決(昭和55年11月28日)において、文書のわいせつ性の判断方法ついて、

  • 文書のわいせつ性の判断にあたっては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうったえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の社会通念に照らして、それが「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべきである

と判示しました。

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