刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(21)~「本罪と児童ポルノ禁止法との罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

本罪と児童ポルノ禁止法との罪数の考え方

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)と児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律児童ポルノ禁止法)との罪数の考え方を説明します。

児童ポルノ禁止法とは?

 まず、児童ポルノ禁止法の説明をします。

 性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を描写した児童ポルノを提供等する行為は、児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えるのみならず、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものです。

 そこで、児童ポルノ禁止法が制定され、上記のような児童ポルノを提供等する行為を規制・処罰することされました。

 児童ポルノ禁止法にいう「児童ポルノ」は、おおむね「わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)」の「わいせつ物」と一致するとされています。

 しかしながら、例えば、性交類似行為に係る児童の姿態の写真であるが、性器部分に「ぼかし」がかけられているものについては、児童ポルノ禁止法2条3項1号の文言上、「児童ポルノ」に当たると考えられますが、現在の社会通念に照らして、必ずしも「わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)」の「わいせつ」とはいえない場合もあり得ると考えられています。

わいせつ物頒布等の罪と児童ポルノ禁止法が観念的競合となる場合の考え方

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)は、国内における性的秩序・道徳・風俗を害する行為であることから処罰の対象とされているものであって、児童ポルノ禁止法の児童ポルノ提供等罪とは規制の趣旨・目的を異にするものです。

 なので、事案によって1個の行為で「わいせつ物頒布等の罪」と「児童ポルノ禁止法の児童ポルノ提供等罪」との両罪が成立することがありえ、その場合両罪は観念的競合刑法54条1項前段)の関係に立つと考えれています。

児童ポルノでもあり、かつ、わいせつ図画でもある物について、頒布(提供)と所持がなされた場合の罪数の考え方

 児童ポルノでもあり、かつ、わいせつ図画(刑法175条)でもある物について、頒布(提供)と所持がなされた場合の罪数関係はどうなるかについて判示した以下の判例があります。

最高裁決定(平成21年7月7日)

 被告人が、児童ポルノであり、かつ、わいせつ図画でもあるDVDと、児童ポルノには当たらない単なるわいせつ画像であるDVDを、多数回にわたり販売し、また、これらを販売目的で所持したという事案です。

 当初の訴因は提供行為のみであったが、第一審において訴因変更により所持行為が追加されたため、弁護人が併合罪説を主張して訴因変更の適法性を争いました。

 裁判所は

とした上で、

  • しかし、児童ポルノであり、かつ、刑法175条のわいせつ物である物を、他のわいせつ物である物も含め、不特定又は多数の者に販売して提供するとともに、不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持したという本件のような場合においては、わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ、その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供、同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は、それぞれ社会的、自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから、結局以上の全体が一罪となるものと解することが相当である

と判示しました。

 この本判決は、刑法175条の各罪が包括一罪となる理解を前提に、かすがい理論によってら児童ポルノ禁止法との関係でも全体が一罪となる旨判断したものです。

※「かすがい理論」とは?…いくつかの罪が繋がっている時に、その繋ぎ目が「かすがい」の役割を果たし、罪数計算の際にまとめて一罪とみなされるという考え方をいう

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