前回の記事の続きです。
本罪の客体(淫行の常習のない女子)
淫行勧誘罪は、刑法183条において、
- 営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘し姦淫させた者は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
淫行勧誘罪(刑法183条)の客体は、
淫行の常習のない女子
です。
何をもって「淫行の常習」というかについては、
など、いろいろと説かれています。
「淫行」の本来の意義は、「淫らな性行為」つまり「性道徳上許容されない種類の性行為」を指すところ、「性道徳上許容されない」の範囲は、
の面から許容されない範囲を決せざるを得ないとされます。
この点に関し、青少年保護育成条例の「淫行」に関する最高裁判決(昭和60年10月23日)の長島裁判官の補足意見が参考になります。
この判決で、長嶋裁判官は、
- 「淫行」概念は、当該刑罰法規の趣旨、目的、その保護しようとする法益等を考慮に容れつつ、当該行為がなされた当時における社会通念を基準として価値的な評価・判断を加えることによって決せられるのである
- もとより、社会一般の価値観は多様化し、また、社会通念は、長期的にみれば、時代とともに変遷することは否み得ないが、問題とされる当該行為がなされた当時における最大公約数としての社会通念それ自体は、通常の判断能力を有する一般社会人にとって把握することは困難ではない
- 同様のことは、「わいせつ」概念についても問題となるが、このような価値的評価・判断を必要とするいわゆる規範的構成要件要素を含む犯罪構成要件であっても、これによって処罰される行為が何であるかを通常の判断能力をもつ一般人において社会通念に照らして識別し理解することが可能であるかぎり、当該構成要件は明確性に欠けるところはないというべきである
と述べています。
淫行の常習の「常習」は「性格の発露」のほか「営利を動機とする場合」であってもよい
上記のとおり、淫行勧誘罪(刑法183条)の客体は、
淫行の常習のない女子
です。
ここでいう「常習」は、必ずしも「性格の発露」であることを要しません。
理由は、性格を責任非難の対象とするのではなく、淫行が反復累行されることによる風俗への悪影響を問題とするものだからです。
したがって、淫行の常習が性格的なものではなく、「営利を動機とする場合」であってもよいとされます。
また、淫行の常習の有無は年齢にかかわりません。
したがって、13歳未満の女子であっても淫行の常習があるとされる場合があり得ます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正8年4月24日)
淫行常習者の認定に関し、裁判所は、
- 刑法第177条後段(※当時の強姦罪)にいわゆる13歳未満の婦女を姦淫したる者は、たとえその婦女の承諾を得たるときといえども、なお犯罪として論ずるの故をもって、13歳未満の婦女は、法律上淫行の能力なく、従って常習者たる認定を受くべきものに非ずと論断するを得ざるものとす
と判示しました。
淫行勧誘罪の記事一覧
淫行勧誘罪(1)~「淫行勧誘罪とは?」「保護法益」を説明
淫行勧誘罪(2)~「客体(淫行の常習のない女子)」を説明
淫行勧誘罪(3)~「『勧誘』とは?」「『営利の目的』の意義」を説明
淫行勧誘罪(4)~「罪数の考え方」を説明