刑法(淫行勧誘罪)

淫行勧誘罪(3)~「『勧誘』とは?」「『営利の目的』の意義」を説明

 前回の記事の続きです。

「勧誘」とは?

1⃣ 淫行勧誘罪は、刑法183条において、

  • 営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘姦淫させた者は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 「勧誘」とは、

客体(淫行の常習のない女子)をして姦淫するに至らせるのに役立ち、かつ、その目的で行われる一切の勧奨手段をいうもの

と解されています。

2⃣ 客体(淫行の常習のない女子)が、勧誘の前に、既に姦淫を決意していたとしても、勧誘が少なくとも姦淫に至る一因をなしていれば、勧誘して姦淫させたというに十分であるとされます。

 この点に関し、売春防止法違反(同法6条2項違反)の勧誘に関する以下の裁判例を参考にすることができます。

福岡高裁判決(昭和36年12月22日)

 裁判所は、

  • 売春防止法第6条第2項第1号にいう「勧誘」とは、売春の意思のない者や売春の意思はあってもこれを表示していない者に売春の相手方となるよう積極的に働きがけることのみではなく、売春の意思をもって売春婦の周旋を依頼する者に対しこれに応して具体的に売春婦を周旋するためさらに交渉する等これに必要な行為をすることをも含むものと解するのが相当

と判示しました。

3⃣ また、「勧誘」とは、本人の自由な意思決定を慫慂する種類の行為であることを要するものと解すべきであり、その際、暴行・脅迫その他の威迫的言動が伴うことを妨げるものではありませんが、本人の意思決定の自由を奪って姦淫させるのは、もはや勧誘して姦淫させることには当たらないと解されています。

4⃣ 勧誘して姦淫させるとは、欺罔偽計、威力、困惑、親族関係等による影響力等を利用する場合を含む一方、姦淫が本人の自由な意思決定に基づく真意に出たものであってもよいとされます。

 この点に関し、売春防止法違反(同法10条違反:売春をさせる契約)に関する以下の判例を参考にすることができます。

最高裁決定(昭和52年3月29日)

 裁判所は、

  • 売春防止法10条にいう「人に売春をさせることを内容とする契約」は、他人に売春をさせることを内容とする契約であれば足り、売春が婦女の自由意思による場合をも含む

と判示しました。

「営利の目的」の意義

 淫行勧誘罪が成立するためには、行為者に「営利の目的」のあることを要します。

 「営利の目的」は、

  1. 自らの財産上の利益を図る場合だけでなく、第三者に利得を得させる場合も含む
  2. 必ずしも営業的ないし反復累行して行うことを要せず、一時的な利得を図る目的でもよい
  3. 利得目的でなされれば足り、現実に利得を得ることを要しない

とされます。

 この点に関し、覚せい剤取締法に関する以下の判例を参考にすることができます。

最高裁決定(昭和57年6月28日)

 裁判所は、

  • 覚せい剤取締法41条の2第2項にいう「営利の目的」とは、犯人がみずから財産上の利益を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう

と判示しました。

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