刑法(逃走の罪)

単純逃走罪(1)~「単純逃走罪とは?」を説明

 これから6回にわたり、単純逃走罪(刑法97条)を説明します。

単純逃走罪とは?

 単純逃走罪とは、刑法97条に規定があり、

  • 法令により拘禁された者が逃走したときは、3年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 単純逃走罪は、法令により拘禁された者が、刑法98条加重逃走罪)の規定する暴行・脅迫等の手段を用いることなく(これらの手段を用いた場合は、刑法98条の加重逃走罪が成立する)逃走する行為(単純逃走)を処罰することとしたものです。

 単純逃走罪は未遂も罰せられます(刑法102条)。

単純逃走罪の性格

真正身分犯

 単純逃走罪は、犯罪の主体が「法令により拘禁された者」に限定されており、真正身分犯です。

侵害犯

 単純逃走罪は、いわゆる侵害犯とされています。

 もっとも、この点に関しては、逃走により国家の拘禁作用は危険にさらされただけであり、それを通して国民生活に危険が生じたと考えるのが妥当とし、逃走の罪を危険犯としてとらえるべきとする見解もあります。

状態犯

 単純逃走罪は、状態犯です。

 状態犯は、

犯罪の結果発生と同時に、犯罪は完了するが(既遂に達するが)、侵害行為の状態が続く犯罪

をいいます。

単純逃走罪の公訴時効の考え方

 単純逃走罪は状態犯なので、その公訴時効は逃走行為が終了したときから起算されます。

刑事収容施設法293条1項の罪との関係

 なお従前は、旧監獄法22条に基づき天災事変に際し解放された在監者が解放後24時間以内に出頭しないときは、単純逃走罪により処罰されると解されていました。

 しかし現在では、地震、火災その他の災害に際し、刑事施設又は留置施設から解放された者が、避難を必要とする状況がなくなった後、速やかに指定された場所に出頭しない場合は、刑事収容施設法293条1項により、2年以下の拘禁刑に処せられることとされています(刑事収容処遇法83条2項215条2項)。

 刑事収容施設法293条1項の罪は法定刑が2年以下の拘禁刑であり、単純逃走罪の法定刑は3年以下の拘禁刑であるので、法定刑が異なります。

 学説では、上記の場合、

  • 刑事収容施設法293条1項の罪のみが成立すると解すべきとするもの
  • 単純逃走罪によって処罰すべきとするもの

があり、見解が分かれています。

逃走罪と懲罰との関係

 逃走をしたことにより懲罰(例えば、刑務所の内部規定における懲罰)を受けた事実があっても、逃走罪により刑の言い渡しをすることは妨げられません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(昭和2年12月10日)

 裁判所は、

  • 刑務所の行う懲罰は在監者の監獄内における規律違反の行為に対し監獄法により典獄これを言い渡すべきものにして、犯罪に対する刑罰に非ざるが故に、被告が本件逃走未遂の行為に関連して秋田刑務所において懲罰を受けたる事実ありとするも、これがために逃走の罪責を免るることを得るものに非ざれば、原判決が被告に対し刑の言渡を為したるは不法に非ず

と判示しました。

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