前回の記事の続きです。
本罪の故意
単純逃走罪(刑法97条)は、故意犯です(故意犯の説明は前の記事参照)。
本罪の故意があるというためには、
- 自己が法令により拘禁された者であること、及び逃走をすることを認識していること
が必要です。
相当時間継続的に拘禁から離脱する意思のあったことは必要なく、一時的にもせよ拘禁離脱の意思があれば足りるとされます。
適法な拘禁を違法だと誤信して逃走行為に及んだ場合でも、逃走罪の故意は阻却されない
適法な拘禁を違法だと誤信して逃走行為に及んだ場合に逃走罪の故意が認められるかという問題があります。
この点については公務執行妨害罪において適法な職務執行を違法だと誤信して暴行・脅迫行為に及んだ場合に同罪の故意が認められるかという議論が基本的に当てはまると考えられています。
公務執行妨害罪においては、適法な職務執行を違法だと誤信して暴行・脅迫行為に及んだ場合でも同罪の故意を阻却せず、同罪が成立します(この点の説明は前の記事参照)。
この点に関する逃走罪の裁判例として、以下のものがあります。
名古屋高裁判決(昭和25年5月8日)
弁護人は、
- 被告人は何ら犯罪に関係なく無罪であるのにかかわらず留置されたため、逃走するのも違法ではないと考えて逃走したものであって、違法の認識を欠く
と主張したのに対し、裁判官は、
- ある犯罪の嫌疑を受けた事実が客観的に無罪であるにせよ苟も一旦適法な手続によって勾留され、かつその効力が法律上消滅せしめられ若しくは停止せしめられない以上、いわゆる未決の囚人であって被告人が所論のように考えたことは刑法第38条第3項にいわゆる法律の不知に該当し、これをもって犯意の阻却、すなわち逃走罪の成立を阻却するものとはなし得ない
と判示しました。