前回の記事の続きです。
逃走援助罪の実行の着手時期、既遂時期
逃走援助罪(刑法100条)の実行の着手時期、既遂時期を説明します。
なお、「実行の着手」「既遂」の基本的な考え方の説明は前の記事で行っています。
逃走援助罪の実行の着手時期、既遂時期は、
- 1項の逃走援助罪(「逃走を容易にすべき行為」をしての逃走援助)
- 2項の逃走援助罪(「暴行又は脅迫」をしての逃走援助)
とで考え方が異なるので、それぞれ分けて説明します。
① 1項の逃走援助罪(「逃走を容易にすべき行為」をしての逃走援助)の実行の着手時期、既遂時期
1項の逃走援助罪は、
逃走を容易にさせる行為を開始すること
が実行の着手時期となります(通説)。
そして、1項の逃走援助罪は、独立罪として規定されたものなので、
逃走を容易にさせる行為の終了
によって直ちに既遂に達します。
現実に被拘禁者が逃走行為に着手し、又は逃走を遂げる必要はありません。
また、被拘禁者が逃走の実行行為に着手した後に、逃走を容易にする行為に着手してもよく、逃走行為中の関与が否定されるものではありません。
しかし、被拘禁者の逃走が既遂に達した後に、逃走者の発見・逮補を妨げる行為は、別に犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)が成立することはあっても、逃走援助罪は成立しません。
判例・裁判例
参考となる判例・裁判例として、以下のものがあります。
佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)
旧刑法146条(現行の逃走援助罪)に関する事案です。
裁判所は、
- 刑法第146条前段の罪は、囚徒を逃走せしむるため、その逃走の方法を指示するによりて成立するものにして、囚徒が逃走に着手すると否とに関係なく、また囚徒が逃走の意思を中止するも、ためにその犯罪を消滅するなし
と判示しました。
佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)
判決の傍論において、
- 刑法第100条の罪はその実質において広く教唆、幇助の双方を含み、しかも被拘禁者を逃走せしめる目的でその逃走を容易ならしめる行為をした以上、被拘禁者が逃走に着手しなくても成立する(独立罪)ものと解せられる
と判示しました。
② 2項の逃走援助罪(「暴行又は脅迫」をしての逃走援助)の実行の着手時期、既遂時期
2項の逃走援助罪は、
暴行・脅迫行為を開始すること
が実行の着手時期です。
そして、暴行・脅迫が行われれば、直ちに既遂となります。
なお、この点について、逃走せしめる目的を達したときに既遂となるとする見解もあります。
本罪の故意、目的
本罪の故意
逃走援助罪は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。
なので、本罪が成立するためには、本罪を犯す故意が必要です。
本罪の故意があるというためには、
- 相手方が法令により拘禁された者であること
- その被拘禁者の逃走を容易にすべき行為を行うこと(1項)又は看守者等に対し暴行・脅迫を加えること(2項)を認識していること
の2点があることが必要です。
本罪の目的
逃走援助罪は、「逃走させる目的で」行われることを必要とする目的犯です。
したがって、本罪が成立するためには、
逃走させる目的に出たこと
を必要とします。