刑法(逃走の罪)

逃走援助罪(5)~「逃走援助罪における共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

逃走援助罪における共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯の考え方

 逃走援助罪(刑法100条)における共同正犯(共犯)教唆犯幇助犯の考え方を説明します。

逃走援助罪は、逃走者自身に逃走罪が成立しない場合でも成立する

 逃走援助罪(刑法100条)は、本来逃走の教唆幇助とされるような行為を独立罪として処罰することとした規定であり、逃走者自身に逃走罪(単純逃走罪加重逃走罪)が成立しない場合であっても成立します。

逃走援助罪が成立する場合は、逃走罪の教唆犯・幇助犯は成立しない

 逃走者自身に逃走罪が成立するに至った場合、逃走援助罪と逃走罪の共犯との関係はどうなるか、刑法総則の共犯規定の適用され、逃走罪の教唆犯・幇助犯の成立する余地があるかが問題になります。

 この点は、逃走者自身に逃走罪が成立するに至った場合であっても、その逃走を援助した者については、逃走罪の教唆犯・幇助犯ではなく、逃走援助罪により処罰されると解するのが一般です。

 その理由としては、

  • 逃走援助罪と逃走罪は、本来共犯関係に立つものだが、これを特に別個の構成要件に書き分けたものなので、刑法総則の共犯規定の適用を排除すること
  • 逃走を容易ならしめる罪と逃走罪との間でも、対向犯の成立を妨げず、対向犯が認められる以上、その内部関係には総則の共犯規定の適用は排除されること
  • 逃走罪、加重逃走罪そのものの教唆犯、幇助犯という類型を認めないのが逃走援助罪の制定の趣旨と解すること
  • 逃走援助罪の性格につき、逃走の幇助的行為を独立罪として、これを重く処罰することとしたものと解するときは、逃走援助罪と逃走罪の幇助との関係については法条競合の関係にあるとして、逃走援助罪のみ成立すると解すれば足りること

が見解として挙げられています。

 この点に関する以下の裁判例があります。

佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)

 この判決の傍論で

  • 共犯形式による逃走については右の刑法第98条第100条に特別の規定がおかれているのであって、これは取りもなおさず、刑法総則の共犯規定 一従ってそのひとつである刑法第60条一 の適用はこれを排除する趣旨であるといわなければならない

と判示しました。

被拘禁者以外の第三者が逃走援助罪に加功した場合、逃走援助罪の共同正犯、教唆犯、幇助犯が成立し得る

 被拘禁者以外の第三者が逃走援助罪に加功した場合に、逃走援助罪の共同正犯教唆犯幇助犯が成立するかという問題があります。

 この点については、逃走援助罪は正犯であり、逃走援助罪の共同正犯、教唆犯(逃走援助教唆罪)、幇助犯(逃走援助幇助罪)の成立が可能とする見解が示されています。

 理由として、一般に教唆犯、幇助犯の幇助を認め得るかについては争いがあるところですが、逃走援助罪については、

  • 本来逃走の教唆・幇助とされるような行為を独立の罪としたものとはいえ、それ自体独立の可罰行為として処罰の対象とされているのであるから、総則の共犯規定も適用し得ると解するのが相当であること
  • 逃走援助罪が逃走罪と対向犯の関係に立つとしても、対向犯のいわゆる外部関係には共犯規定が適用されると解されることからすれば、逃走援助罪に加功した第三者に本罪の共同正、犯教唆犯ないし幇助犯は成立し得ると解されること

が挙げられています。

被拘禁者自身に逃走援助罪の共同正犯(共犯)は成立しない

 被拘禁者自身に逃走援助罪の共同正犯(共犯)が成立するかという問題があります。

 例えば、被拘禁者自身が、他人を教唆して逃走援助罪を実行させた場合に逃走援助罪の教唆犯が成立するかという問題です。

 この点については、

  • 被拘禁者は、単純逃走罪加重逃走罪の要件を具備するに至った場合は、これらの罪で処罰されるのであって、逃走援助罪の共犯として処罰されることはない
  • 逃走罪の主体になり得ない被拘禁者については、逃走罪も逃走援助罪の共犯も成立しない

と解するのが一般となっています。

 その理由としては、

  • 逃走罪と逃走援助罪は、本来共犯関係にあるものが別個の構成要件に書き分けられたものであるから、総則の共犯規定の適用を排除し、被拘禁者が他人を教唆・幇助して自己の逃走に関与させても、逃走援助罪の教唆犯、幇助犯の責任を問われることはなく、これは被拘禁者が逃走罪の主体たり得ない者であっても同様であること
  • 逃走援助罪と逃走罪の関係でも対向犯の成立を妨げず、そこに対向犯の関係が認められる以上、関与者の内部関係においては総則の共犯規定の適用が排除されること

が挙げられています。

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