刑法(逃走の罪)

看守者逃走援助罪(3)~「『逃走させる』とは?」「本罪の故意」「実行の着手時期、既遂時期」を説明

 前回の記事の続きです。

「逃走させる」とは?

 看守者逃走援助罪は、刑法101条において、

法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者を逃走させたときは、1年以上10年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 「逃走させる」の意義については、

被拘禁者の逃走を惹起し又はこれを容易ならしめる一切の行為をいう

とする見解が多数説です。

 例えば、逃走をさせる行為には、

  • 逃走の意思のない者にその意思を生ぜしめる場合
  • 被拘禁者を解放する場合
  • 器具の提供その他逃走を容易ならしめる行為をする場合

も含むし、

  • 被拘禁者が逃走するのを認識しながらあえてこれを放置するような不作為による場合も含まれる

と解されています。

本罪の故意

 逃走援助罪は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 看守者逃走援助罪の故意があるというためには、

  • 法令により拘禁された者を看守し又は護送する任務を有する者であることを認識していること

    及び

  • 法令により拘禁された者を逃走させる行為をすることを認識していること

が必要です。

実行の着手時期、既遂時期

※「実行の着手」「既遂」の基本的な考え方の説明は前の記事参照

 看守者逃走援助罪の実行の着手時期は、

逃走させる行為を開始したとき

です。

 また、看守者逃走援助罪の実行行為は「逃走させ」る行為なので、本罪が既遂に達するには

被拘禁者が実際に逃走すること

が必要とされます。

 看守者逃走援助罪が既遂に達するには、被拘禁者が逃走に着手すれば足るのか、それとも逃走が既遂に達したことが必要かについては、逃走行為が既遂に達する必要があるとするのが通説です。

 その理由としては、被拘禁者が逃走に着手した後に逃走させる行為が行われる場合もあり得るから、逃走が既遂に達したときに看守者逃走援助罪も既遂となると解する方がより簡明であることが挙げられています。

被拘禁者が逃走するに至らなかった場合に、「逃走援助罪」と「看守者逃走援助未遂罪」のどちらが成立するか?

 看守者逃走援助罪の主体である看守者が、刑法100条1項の逃走援助行為にも当たるような行為をしたが、被拘禁者が逃走するに至らなかった場合については、刑法100条1項の逃走援助罪ではなく、看守者逃走援助未遂罪が成立するとされています。

※ 逃走援助罪は、逃走を容易にさせる行為の終了によって犯行が既遂に達することについては逃走援助罪(4)の記事参照。

 なお、この点につき、他の見解として、

  • 看守者逃走援助罪の主体(看守者)の行う行為が、逃走援助罪の構成要件を充足するにとどまるなら、逃走援助罪だけを認めればよいとする見解
  • 逃走援助罪のほか、更に看守者逃走援助未遂罪が認められるならば科刑上一罪とする見解

もあります。

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