刑法(偽証の罪)

偽証罪(2)~「宣誓無能力者が宣誓した場合には偽証罪は成立しない」を説明

 前回の記事の続きです。

宣誓無能力者が宣誓した場合には偽証罪は成立しない

 偽証罪(刑法169条)の主体(犯人)は、

「法律により宣誓した証人」

です。

 証人であっても、宣誓しない者に対しては、偽証罪の主体となることはなく、偽証罪は成立しません(詳しくは前回の記事参照)。

 ここで、宣誓無能力者(宣誓する能力を有しない者)が宣誓した場合に偽証罪が成立するかが問題となります。

 宣誓無能力者と見なすため、宣誓をさせないで証言させる場合として、

  • 民訴法201条2項は、証言する者が16歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することができない者である場合
  • 刑訴法155条は、証言する者が宣誓の趣旨を理解できない者である場合

を規定しています。

 この宣誓の趣旨を理解する能力は、宣誓時に存在するだけでなく、証言の時点においても要求されると考えられています。

 このような宣誓する能力を有しない者を誤って宣誓させ、その者が虚偽の証言をした場合に偽証罪の成立を認めることができるかについては、宣誓の能力を有しない者は宣誓の意味を理解せず、その宣誓は無効であるから偽証罪は成立しないと解されています。

 現行の民訴法201条及び刑訴法155条について判示した判例は見当たりませんが、旧刑訴201条及び旧々民訴310条に規定する宣誓不適格者(当該事件の当事者と一定の親族関係にある者や当該事件の被告人と共犯関係にある者など宣誓させないで尋間すべきものとされる者)が誤って宣誓させられた上、偽証した場合につき、偽証罪が成立するかどうかについて、偽証罪は成立しないとした以下の判例があります。

最高裁判決(昭和27年11月5日)

 裁判所は、

  • 旧刑訴188条1項該当の場合において、証言拒絶権を行使しない証人に対しては、裁判所が宣誓せしめてはならないことは同法201条1項の明文に照らして明らかなところである
  • そして、偽証罪を定めた刑法169条にいわゆる「法律により宣誓したる証人」とは、法律上宣誓せしめ得る証言事項につき宣誓したる証人と解するを相当とし、従って前記の如く法律上宣誓せしめ得ない証言事項につき宣誓したる証人を含まないものと解すべきである

と判示し、宣誓不適格者が誤って宣誓させられた場合は、偽証罪の主体になり得ないことを明らかにしました。

 この理は、現行の民訴201条及び刑訴155条による宣誓無能力者に誤って宣誓させた場合についても妥当すると考えられています。

「宣誓無能力者の宣誓が有効でないこと」と「その者の証言の証拠能力」は別物である

 刑訴155条は、宣誓無能力者が宣誓したときでも、その供述は証言としての効力を妨げられない旨を規定しています。

 つまり、宣誓無能力者が宣誓したときでも、その供述は証言としての効力を有し、証拠能力が認められます。

 この点、上記の最高裁判決(昭和27年11月5日)は、宣誓無資格者につき同旨の規定をおいた旧刑訴201条の規定の趣旨につき

  • その規定の趣旨は、宣誓せしめずして尋問しなければならない場合に、宣誓せしめて尋問したその証言の証拠能力の有無如何についての疑義を除いた趣旨の規定である

として、宣誓無能力者が宣誓して行った証言の証拠能力が認められる場合においても、宣誓そのものまで有効になるものではないことを明らかにしており、このことは、現行の刑訴155条についても同様に解するべきであると考えられています。

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