刑法(偽証の罪)

偽証罪(9)~「偽証罪の故意」を説明

 前回の記事の続きです。

偽証罪の故意

1⃣ 偽証罪(刑法169条)は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 偽証罪の故意の内容は、

自己の陳述する内容が自己の記憶に反することを認識すること

です。

 なので、自己の記憶に反することを認識しながら、あえてこれと異なる事実を陳述するときは、たとえその陳述内容が真実であると確信していたとしても、偽証罪の故意が認められます。

2⃣ 「自己の陳述する内容が自己の記憶に反することを認識」の程度は未必的なもので足ります(未必の故意の説明は前の記事参照)。

3⃣ 記憶が明確でないにもかかわらず明確であるように証言する意思は記憶に反する事実を証言する意思であり、偽証罪の故意を認めることができます。

4⃣ 真実が何であるかを認識していることも不要です。

 この点を判示した判例があります。

大審院判決(大正2年6月9日)

 裁判官は、

  • 偽証罪の成立するには、適法に宣告したる証人が故意に自己の認識せる事実に反して虚偽の供述を為すことを要するも、その供述すべき事項に関して真正の事実を熟知することを必要とせず

と判示しました。

5⃣ 偽証をすることの動機、目的がどうかは偽証罪の成否に影響を与えません。

 例えば、偽証することで被告人をかばおうとする目的や、反対に被告人を陥れようとする目的の有無は偽証罪の成否に影響を与えません。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(明治42年9月16日)

 裁判所は、

  • 法律により宣誓したる証人が故意に虚偽の陳述を為したるときは偽証罪を構成す
  • 而して、犯人の目的が被告人を曲庇又は陥害するに在ると否とを問わざるはもちろん、その陳述が現実、被告人を曲庇又は陥害することを知りたるや否やもまた犯罪の成立に影響及ぼさず

と判示しました。

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