刑法(偽証の罪)

偽証罪(11)~「偽証罪の共同正犯、間接正犯」を説明

 前回の記事の続きです。

偽証罪の共同正犯、間接正犯

 偽証罪(刑法169条)の共同正犯間接正犯の成否について説明します。

 偽証罪は真正身分犯であるところ、宣誓した証人の身分を有しない者が偽証罪を共謀した場合、刑法65条1項の適用により、証人の身分ない者でも偽証罪の共犯(共同正犯)となります。

 判例・裁判例では、以下のような偽証罪の共謀共同正犯の成立を認めたものがあります。

 偽証罪の間接正犯の成立を認めた裁判例は見当たりませんが、偽証罪の間接正犯も成立し得ると解されています。

大審院判決(昭和9年11月20日)

 身分なき者の加功による偽証罪の共謀共同正犯の成立を認めた事例です。

 事案は、A・B・Cの3名が共謀の上、Cの民事訴訟を有利に展開するため、証言内容を打ち合わせてDが証人となり、宣誓の上虚偽の陳述をしたというものです。

 裁判官は、

  • 法律により宣誓を為さざる者が宣誓を為したる者と共に偽証を為さんことを謀り、これを遂行したるときは、偽証罪の共同正犯をもって論ずべきものとす
  • 偽証罪は法律により宣誓したる者に非ざれば犯すことを得ざる犯罪なるをもって刑法65条1項にいわゆる身分により構成すべき犯罪行為に該当するものというべく身分なき者がこれの犯罪行為に加功し相共に偽証を為さむことを謀議し、もってこれを遂行したるときは…、右身分なき者もまた偽証罪の共同正犯をもって律すべきものである

と判示し、偽証罪の共謀共同正犯の成立を認めました。

東京地裁判決(平成9年3月24日)

 宗教団体の教団幹部が、国土利用計画法違反等の罪に問われた教団関係者の刑事責任を免れさせようと、裁判所に提出する書類を偽造して行使したり、被告人が中心となって虚偽のストーリーを組み立てて教団関係者に記憶させ、偽証に当たっては事前に模擬の尋問を行うなどした上、当該教団関係者が宣誓の上で偽証させたことにつき実刑判決が言い渡された偽証罪、有印私文書偽造・同行使罪の事例です。

 裁判所は、

  • F及びGらと共謀の上、Gをして虚偽の証言をさせることを企て、平成4年6月25日及び同年8 月27日、前記熊本地方裁判所第101号法廷で開廷された前記各被告事件の第16回及び第17回各公判期日において、前記受領書及び「覚書」が、いずれも被告人らによって偽造されたものであることを認識しているGにおいて、証人として、宣誓の上、「平成2年7月16日、Dとニ人でEに会った際、同人に対し、Dが『融資の覚書を紛失したので、領収書のようなものを書いてほしい。』 と言うと、Eが『あの話は外部に公表しないことになっているはずじゃないか。そういう話は困る。もう少し探して下さい。』と言った。その日の夜、Dから、『教団がEに3500万円を融資し、覚書を作成したが、世間体を気にするEの要望で絶対表に出さないという取り決めになっていた。』などと聞いた。」旨、「同月23日、Dとニ人でEを訪ね、16日と同様のお願いをしたところ、Eは、覚書が外部に出されては非常に困るという感じで応対した。」旨、及び「同月24日、Dとニ人でEを訪ね、16日及び23日と同様のお願いをしたところ、Eは、最終的に『じゃあ作りましようか。文面はどうしましようか。』などと言った。その後、3 5 0 0万円の受領書を作成してくれたとDから聞いている。」旨それぞれ虚偽の証言をし、もって、偽証したものである

と判示し、偽証罪の共謀共同正犯の成立を認めました。

京都地裁判決(平成17年3月8日)

 弁護士である被告人が、弁護人を務めていた強盗致傷、窃盗被告事件において、その被告人らの罪責を免れさせ、あるいはこれを軽減させることを企図して、事件の被害者やその関係者である暴力団組員らと共謀の上、被害者に裁判所の法廷で証人として虚偽の証言をさせ たという事案です。

 裁判所は、

  • 被告人は、K弁護士会所属の弁護士であり、K地方裁判所第1刑事部に係属していた被告人A、同Bおよび同Cにかかる強盗致傷、窃盗被告事件における上記Aら3名の弁護人であったところ、同被告事件について、真実は、Aら3名が、平成15年2月7日、Dに対し暴行脅迫を加えるなどして、同人管理にかかるキャッシュカードを強取し、同キャッシュカードを使用して△△信用金庫xx支店に設置された現金自動支払機から同支店支店長管理にかかる現金2079万円を窃取したものであるという事実を知りながら、D、E、F、GおよびHらと共謀の上、上記被告事件についてDが偽証することを企て、同年9月9日、K裁判所第205号法廷における上記被告事件の公判期日において、刑事訴訟法の規定により宣誓した証人であるDが、「自動車の運転をめぐってBとトラブルになり、同人とけんかになったが、同人から一方的に暴行を受けたわけではない。Aは仲裁に入ったのであり、同人とcからは暴行を受けていない。キャッシュカードは、強取されたのではなく、自分からAに交付し、同人に出金を要請した。現金2079万円は、窃取されたのではなく、Aが経 営する金融業に出資したものである」などと自己の記憶に反した虚偽の陳述をし、もって偽証したものである
  • 被告人は、EとFが、Iに伴われて被告人の事務所を訪れた際、Dに偽証させることを匂わせるEの発言を耳にしながら、Fから現金20万円を受け取っている
  • そして、その数週間後、被告人は、Eらから飲食の接待を受けたのみならず、その席で、偽証の筋書を記載した書面を示され、Dに偽証させることをEらが計画していることを確定的に認識したにもかかわらず、再度、現金50万円を受け取り、その後も何ら偽証に関与することを拒絶していない
  • このような経緯に照らせば、遅くとも上記接待がなされた平成15年7月17日の時点において、被告人が、共犯者らとの間で本件偽証の共謀を遂げたことは明らかである

と判示し、刑法65条1項60条を適用して、偽証罪の共同正犯が成立するとしました。

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