刑法(偽証の罪)

虚偽鑑定等罪(2)~「本罪の行為(虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること)」を説明

 前回の記事の続きです。

 虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪(刑法171条)を適宜「本罪」といって説明します。

本罪の行為(虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること)

 虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪は、刑法171条において、

法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をしたときは、前二条(注:第169条第170条のこと)の例による

と規定されます。

 本罪の行為は、

虚偽の鑑定、通訳、翻訳をすること

です。

「虚偽」の意義

1⃣ 「虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること」の「虚偽」の意義については、偽証罪(刑法169条)の場合と同様に、主観説と客観説の2説があります(詳しくは偽証罪(6)の記事参照)。

 主観説は、

「虚偽の陳述」とは、証人が自己の記憶に反して陳述することをいう

するものです。

 客観説は、

証人が自己の記憶に反する事実を陳述しても、それが客観的事実に合致していれば、偽証罪を構成しない

とするものです。

 本罪についても、偽証罪の場合と同様、主観説によるべきとされます。

 この点を判示した判例があります。

大審院判決(明治42年12月16日)

 裁判所は、

  • 虚偽鑑定の罪は、法律により宣誓したる鑑定人が鑑定事項に関し自己の所信に反して虚偽の意見判断を陳述することにより成立し、自己の所信に反して陳述したる意見がたまたま客観的真実と符合することあるも、これがため同罪の成立に影響を及ぼすに非ず

と判示し、本罪が主観説によることを明らかにしています。

2⃣ また、上記判例は、虚偽の鑑定・通訳が、その後いかに使用されたかも問わないとします。

大審院判決(明治42年12月16日)

 裁判所は、

  • 刑法の詐偽鑑定罪(第224条)(注:旧刑法)及び刑法の虚偽鑑定罪(第171条)は共に法律により宣誓したる鑑定人が虚偽の鑑定を為すことによりて完成し、その鑑定が爾後如いかに使用せられたるやは犯罪の成立に関係なきものとす

と判示しました。

「鑑定」の意義

 「虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること」の「鑑定」とは、

特別の知識経験によって知り得た法則及びその法則を適用して得た意見判断の報告

をいいます。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年2月19日

 刑事訴訟における鑑定人につき、裁判所は、

  • 鑑定は裁判所が裁判上必要な実験則等に関する知識経験の不足を補給する目的でその指示する事項につき第三者をして新たに調査をなさしめて法則そのもの又はこれを適用して得た具体的事実判断等を報告せしめるものである

と判示しました。

「通訳」の意義

 「虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること」の「通訳」とは、

国語に通じない者あるいは身体的障害のため音という手段によって意見・思考内容等を伝達することができない者の意見又は思考内容の表示を国語になおして表現し、また、これらの者に対する国語による表現をこれらの者が理解できるような表現になおして伝えること

をいいます。

「翻訳」の意義

 「虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をすること」の「翻訳」とは、

国語以外の文字又は符号による表現内容を原文に則して国語による表現に転換すること

をいいます。

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