刑法(偽証の罪)

虚偽鑑定等罪(3)~「既遂時期」「罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

 虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪(刑法171条)を適宜「本罪」といって説明します。

既遂時期

 本罪の既遂時期は、

  • 鑑定、通訳、翻訳が書面をもってなされた場合 → 書面が裁判所等の審判機関に提出された時
  • 鑑定、通訳、翻訳が口頭でなされる場合 → 陳述が全体として終了した時点

であると解されています(既遂」の説明は前の記事参照)。

罪数の考え方

 1個の教唆行為により数個の虚偽鑑定をさせたときは、1個の虚偽鑑定教唆罪を構成するにすぎず、各虚偽の鑑定ごとに1個の犯罪を構成するものではないとする判例があります。

大審院判決(明治42年12月16日)

 裁判所は、

  • 1個の教唆行為により数個の虚偽鑑定を為さしめたるときは、1個の詐偽鑑定教唆を構成するに過ぎずして、各虚偽の鑑定ごとに1個の犯罪を構成すべきものに非ず

と判示しました。

 なお、この大審院判例に対しては、最高裁の判例(最高裁決定 昭和57年2月17日)が、

  • 共犯について成立する犯罪について、正犯のそれに従うと解した上、処断上の罪数関係については、共犯行為(教唆行為又は幇助行為)自体の数を基準として決定すべきである

との趣旨を判示していることから、各虚偽の鑑定ごとに1個の虚偽鑑定罪が成立すると解することもできるので、前掲大審院判例はこの観点から再検討される必要があるとする意見があります。

偽証の罪の記事一覧