刑法(不動産侵奪罪)

不動産侵奪罪(5)~侵奪②「不動産侵奪罪における不法領得の意思」を説明

 前回の記事の続きです。

不動産侵奪罪における不法領得の意思

 不動産侵奪罪は刑法235条の2において、

他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 「侵奪」とは、

不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すこと

をいいます(最高裁判決 平成12年12月15日)。

 「侵奪」に当たるためには、

  1. 客観的要件として、他人の占有の排除と自己の占有の設定
  2. 主観的要件として、不法領得の意思

が必要となります。

 この記事では、②の「主観的要件として、不法領得の意思」を説明します。

不法領得の意思の定義

 侵奪には、侵奪についての故意のほか、不法領得の意思を必要とするのが判例です(最高裁判決 平成12年12月15日)。

 この不法領得の意思は、

権利者を排除し他人の不動産を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用又は処分する意思

をいいます。

 不動産についての不法領得の意思は、他人の不動産を自己の所有物とするまでの意思は必要ではなく、正当な権限なしに権利者を排除して、不動産の占有を奪い、これを利用しようとする意思となります。

 ただし、いわゆる使用窃盗に類する一時使用との関係で、ある程度継続的に占有を奪う意思が必要とされます。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

大阪高裁判決(昭和42年5月12日)

 裁判所は、

  • 刑法第235条の2にいう不動産の侵奪とは、不法領得の意思をもって不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己の支配下に移すことをいい、右不法領得の意思は刑法第235条の動産窃盗におけると同様、権利者を排除し他人の不動産を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用または処分する意思と解せられる
  • 即ち、不動産についていえば、他人の不動産を自己の所有物としようとするまでの意思は必要でなく、正当な権限なしに権利者を排除して不動産の占有を奪い、これを利用しようとする意思があれば足りるのである
  • しかし、不動産については、一時使用との関係で、ある程度継続的に占有を奪う意思がなければ不法領得の意思があるとはいえない点に注意を要する

と判示しました。

不動産の一時的使用と不法領得の意思の関係

 上記裁判例で判示されているとおり、「不動産については、一時使用との関係で、ある程度継続的に占有を奪う意思がなければ不法領得の意思があるとはいえない」ので、不動産の一時使用の場合は、不動産侵奪罪は成立しません。

 具体的には、他人の不動産の一時的使用、例えば、

  • 空家に一晩泊まるとか
  • 空地に天幕を張って一両日公演をする

といった当初から一時的使用のみを目的としている場合には、不動産侵奪罪の成立はなく、場合により、

が成立するにとどまります。

 しかし、当分の間、その空家を根拠地としたり空地で公演を続けるといった場合には、不動産侵奪罪の成立が考えられます。

 この点の判断は、当該家屋や土地の利用状況が外見上権原に基づくとみられる程度のものか否かや、具体的状況を勘案し、様々な要素を考慮した上で決することになるとされます。

不動産の不法領得の意思が認められず、不動産侵奪罪の成立が否定された裁判例

 不動産の不法領得の意思が認められず、不動産侵奪罪の成立が否定された裁判例として、以下のものがあります。

福岡高裁判決(昭和44年3月18日)

 市道を自動車学校の敷地として利用するに当たり、道路交通法所定の市道改廃に関する市長等の承認を受ける前に、自動車学校の敷地と同じ高さに市道を埋め立てた事案です。

 裁判所は、

  • 自動車学校が、市道改廃の申請を準備中で、市側も埋立てを行うことを黙認していた等の事情がある場合には、不法領得の意思は認められず、不動産侵奪罪の成立しない

としました。

次の記事へ

不動産侵奪罪の記事一覧