前回の記事の続きです。
不動産侵奪罪の「実行の着手時期」と「既遂時期」の説明
不動産侵奪罪(刑法235条の2)の「実行の着手時期」と「既遂時期」を説明します。
「実行の着手時期」と「既遂時期」の基本概念の説明は前の記事参照。
実行の着手時期
不動産侵奪罪の実行の着手は、
不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除するための事実行為をした時
です。
具体的には、隣地を取りこむための杭を打ち始めた時のように具体的な不動産に対する客観的侵害行為を必要とします。
他人の土地を造成するような侵奪の場合でも、単に造成のための測量をするだけでは、占拠の継続性が外見に表われておらず、実行の着手があったとはいえません。
既遂時期
不動産侵奪罪の既遂時期は、
他人の占有を排除して行為者又は第三者の占有を設定した時期、言い換えると、不動産の占拠が事実上完成したとみられる時
です。
例えば、他人の土地に杭を打って有刺鉄線を張る形での侵奪の場合、有刺鉄線を全部張り終えなくても、大部分張り終えて、客観的に他から区別し得る状態になった時に、不動産侵奪罪が既遂に逢したといえます。
ただし、既遂も行為の性質上、即時的ではなく、全部張り終えるまでの間の時間的継続を含むものと解すべきとされます。
この点に関する以下の裁判例があります。
福岡高裁判決(昭和62年12月8日)
土地に縄張りをし、あるいはその一部に掘削等工事の最初の鍬人れをした時点で、その範囲の土地全体に対する侵奪行為の実行の着手と犯罪行為の終了がある旨の主張を排斥し、「不動産に対する侵奪行為は、その行為の性質上一定の時間的継続がみられるのが、むしろ通常」として、土砂削取りとコンクリート擁壁の築造をもって侵奪行為としました。
鳥取地裁米子支部判決(昭和55年3月25日)
川に面した部分に護岸を築き、その上の道路を舗装して既遂に達するとする検察官の主張を排して、「土地の周囲を囲み、もしくは、そのほぼ全域に土砂を盛りあげて、通常人がこれを見れば造成の対象となっている土地の範囲を容易に看取することができるような外観を作り出す行為は、本件土地につき自己の占有を設定する行為そのものであり、かつ、右行為によって占有の設定行為は完了している」と判示しました。