刑法(不動産侵奪罪)

不動産侵奪罪(7)~「不動産侵奪罪における自救行為の成否」を説明

 前回の記事の続きです。

不動産侵奪罪における自救行為の成否

 他人に家・土地などの不動産を不法に占有され、被害者がそれを自力で奪回する行為が、自救行為として適法な行為として認められるかが問題となります。

 自救行為とは、

国家に頼らず、自らの力で自分の権利を守ること(自力救済すること)

をいいます。

 自救行為が認められると、その自救行為が不動産侵奪罪などの犯罪行為に該当しても、違法性が阻却され、犯罪が成立しません。 

 他人に奪われた不動産を奪い返す行為が不動産侵奪罪に該当したとしても、自救行為して違法性が阻却されるか否かは、不法占拠の態様、緊急性等の具体的事情に応じてその可否が決せられると解されています。

 この点に関する裁判例として、以下のものがあります。

不動産の侵奪行為が自救行為として認められないとした事例

大阪地裁判決(昭和45年11月26日)

 被告人がAにアパートを賃貸したが、Aが家賃を支払えなくなったため、被告人はAにアパートの退去を求めたが、被告人がAに対し貸借契約終了時に返還することになっていた保証金を返還しないことから、Aがアパートの退去を拒んでいたところ、被告人がアパートからAの家財道具全部を室外廊下に搬出した上、表入口板戸を釘付けにして「立入禁止」の貼り紙をし、Aの占有するアパートを侵奪したとして不動産侵奪罪の罪に問われた事例です。

 裁判所は、

  • 法律の定める手続をとって明渡を求める余裕のない程の緊急性は認められず、かつAは返還しなければならない保証金を受け取りさえすればいつでも居室を明け渡す旨言明していたのに、被告人らは保証金を返還しようとせずに実力でもって明渡を強行したのであるからその行為は手段においても相当でなく、結局被告人らの本件行為は正当な行為として認めることはできない

として、自救行為を認めず、不動産侵奪罪が成立するとしました。

不動産の侵奪行為が自救行為として認められるとした事例

福岡高裁判決(昭和45年2月14日)

 建物賃借人が賃貸人たる所有者からその建物に対する占有を侵奪され、それを奪回するために、賃借人が従来の占有を根拠に被侵奪後4日目に建物のシャッタードアの内外錠を取り替え、自動車を格納する方法で奪回した行為について、占有による自救行為として違法性がなく、器物損壊罪(シャッタードアの鍵の取り替え)、不動産侵奪罪は成立しないとし、無罪を言い渡した事例です。

 裁判所は、

  • 被告人はAに対し、右占有の回収を得るための占有訴権を有することは多言を要しないところ、Aが本件店舗の占有を取得したとき以降、被告人がシャッタードアの内外錠を取り替えたときまで、本件店舗内には被告人の陳列棚が三脚ほど残置されていたことが認められ、またAの占有が戸締りをすることによってなされたものであり、他方、Aは右占有取得前から被告人が前記賃借権にもとずく占有の存在およびその継続の意思を主張していることを知悉していたことが認められるうえに、被告人が本件店舗の前叙錠を取り替えるまでにはAの右占有取得後4日しか経過していないのであるから、結局、Aの本件建物に対する右占有は、被告人との関係において、被告人の右錠取り替えのときまでに、未だ安定した生活秩序として確立していなかったものと認めるのが相当である
  • そして、平和秩序維持のため物に対する事実的支配の外形を保護せんとする占有制度の趣旨および作用からいって、占有侵奪者であるAの占有が前叙のように未だ平静に帰して新しい事実秩序を形成する前である限り、被侵奪者である被告人の喪失した占有は未だ法の保護の対象となっているものと解すべく、従って、被告人はAの右占有を実力によって排除ないしは駆逐して、自己の右占有を回収(奪回)することが法律上許容されるものと解される(いわゆる自救行為として)
  • してみると、被告人の前叙シャッタードアの内外錠の取り替えならびに自動車の格納は、その目的は何であれ、ともかく本件店舗に対する前記賃借権の存続を前提とするものであり、しかも右賃借権は、Aが本件店舗の所有権を取得した当時なお被告人の本件店舗に対する占有は継続しており、右賃借権はAの所有権に対し対抗力を有していたことが明らかであるから、その後、被告人が右の様に一時的に占有を喪失してもAに対して対抗力を失うべき理はないので、これに基づく従前からの占有を確保するために、Aから本件店舗の占有を奪回する手段方法として為されたものであることは、原審において取り調べた各証拠により明らかであるとともに、その手段方法としても必ずしも不当とはいえないのであるから、被告人が右錠の取り替えの一環としてなした原判示第一の旧内外錠の損壊行為ならびに自動車の格納行為には違法性がないものというべきである

と判示しました。

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