刑法(背任罪)

背任罪(9)~罪数①「背任罪が包括一罪となる場合の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

背任罪が包括一罪となる場合の考え方

背任罪(刑法247条)の罪数の考え方について、包括一罪となるか否かが問題となる場合があります。

 背任罪は、他人のためにその事務を処理するという包括的、継続的関係を前提とするものなので、任務違背の同種の行為が反復されたり、態様を異にした行為が複数回行われたりすることも少なくありません。

 同一の包括的意思に基づき、同一当事者間になされた同性質の行為と評価できれは、包括一罪として扱われることが考えられます。

 この点につき、参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和53年10月20日)

 銀行支店の外国為替業務担当係長Xが、A社の社長Bと共謀の上、約1年間にわたり、輸出荷為替手形を買い取った事実がないのにこれを買い取ったことにして、A社の当座預金元帳に70回にわたって合計約14億円を入金記帳させたほか、A社に対し、決裁・稟議等の所定の手続を経ず、同一の形態で、無担保で36回にわたり合計1億円余りを貸し付けた事案です。

 この中には、Bのみの利益を図る目的であったり、X及びBの利益を図る目的であったり、共犯者が他にもあったりと複雑な事案でした。

 東京高裁は、第一審判決が犯行日ごとに一罪が成立すると判断したのに対し、これを破棄し、

  • 同一犯行目的のためにいくつかの異なる手段、方法が反復継続してとられた本件のような背任罪においては、その実行行為においてとられた具体的手段、方法が全く同一とはいえない場合でも、それがいずれも背任者の同一任務に違反する同一の犯意ないし目的のためになされた行為であると認められる以上は、それは同一の罪の実行行為が複数の態様の手段、方法によって行われたにすぎないものというべきであって、従ってその行為全体を同一犯による包括一罪と認めるべきであり、その手段、方法の相違ごとに別個の背任罪が成立するとすべきではなく、背任の具体的行為が背任者の同一の犯意のもとに多数反復継続された場合に、これに共謀による共犯者の加功があり、中途でその共犯者に変動があったとしてしこれによって直ちに背任者の犯意、目的や背任行為そのものが別個の新たなものに移り変わるとはいえないから、背任者についてその犯意や犯行態様が当初のものと同一であると認められる限り、犯行中途における共犯者の変動にかかわらず全体を包括して一罪と認めるのが相当である

旨述べ、包括一罪となるとしました。

 なお、この東京高裁判決は、最高裁(最高裁判決 昭和57年4月22日)で破棄され、一部の背任行為が背任の幇助犯の成立にとどまるとされた部分はありますが、罪数評価そのものに誤りがあるとしたものではないと解されています。

東京高裁判決(平成11年7月26日)

 A社が経済的破たん状態にあったB社に対して継続的に貸付けがされた事案です。

B社の経済的破綻状態に対する認識、任務違背の内容の同一性、貸付けの態様、これまでのA社に対する返済の形態等から、一連の貸付けは包括して一罪をなすものと解するのが相当であるとしました。

 裁判所は、

  • 貸付の決意は原判示指摘の点を踏まえその都度なされるにしても、原判示認定のような被告人のグローバル航空の経済的破綻状態に対する認識、任務違背の内容の同一性、貸付の態様、これまでの本庄ガスに対する返済の形態等に鑑みれば、被告人は、本件貸付時右のような認識を有しながらも、なお、グローバル航空を倒産させたくないとの思いから本件の一連の貸付をしていたことが明らかであるから、本件各貸付は包括して一罪をなすものと解するのが相当である

と判示しました。

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