刑法(背任罪)

背任罪(13)~「背任罪と①窃盗幇助罪、②業務妨害罪、③文書偽造罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

① 背任罪と窃盗幇助罪との関係

 背任罪(刑法247条)と窃盗幇助罪との関係に関する以下の裁判例があります。

高松高裁判決(昭和27年9月30日)

 AからA所有の物件の保管を依頼されAのためこれを保管していたXが、Bがこの物件を不法に搬出するのを黙認し(XはBに対して貸金を有していたため、XはBがその物件を売却して得た代金によって貸金を回収しようと考え、容易に防止し得るのにBの搬出を阻止せず、また、Aに通報することもしなかった)、 Aにこの物件の価額相当の損害を与えたという事案です。

 裁判所は、Xの行為は窃盜幇助罪ではなく背任罪に当たるとしました。

 裁判所は、Bの行為が窃盗罪に当たることはいうまでもないが、Xにつき背任を認めることはBに窃盗罪を認めることと両立し得ないものではないとしています。

 この判決は、学説では、

  • Bの行為は単に窃盗幇助の構成要件にも当てはまるが、BとAとの関係からして、Bの行為は単に窃盗幇助では評価し尽くし得ないAに対する背信性を含んでいる
  • 背任と窃盗幇助とは一種の法条競合の関係に立つ

として支持されています。

② 背任罪と業務妨害罪との関係

 背任行為により本人の業務を妨害し、これに財産の損害を加えた時は、背任罪と業務妨害罪の観念的競合となります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正14年10月21日)

 貿易商の支配人が、販売業者の販売を受託していながら、虚偽の事実を記載した文章を顧客らに送付して一手販売権を横取りした事案で、偽計業務妨害罪と背任罪とに当たり、両者は観念的競合の関係に立つとしました。

③ 背任罪と文書偽造罪との関係

 背任罪と私文書偽造罪との関係について判示した以下の裁判例があります。

松江地裁判決(昭和33年1月21日)

 Y銀行の支店長Xが、取引先であり漁業を営むAのために、Aの事業が不振であって資金繰りに極度に困っており、そのまま放置すれば倒産に追い込まれ、ひいてはY銀行のAに対する貸付金が焦げ付くにいたることを恐れて、Aの利益を図るため、行使の目的で普通預金払戻請求書用紙の金額欄にAのY銀行に対する利息債務額を記入し、請求者欄に別の取引先であるBの氏名を冒書し、かつ、Bから預かっていたBの印章を冒捺してB名義の普通預金払戻請求書を偽造し、これを真正に成立したもののように装って収入支払諸伝票綴りに編綴備え付けて行使し、さらにこの払戻金をAの利息債務の支払に振り替えたかのようにY銀行の帳簿に記帳して、この利息債務の支払のためAから受け取っていたA振出の約束手形に支払済みの記入をし、これによりAのY銀行に対するこの利息の支払義務を事実上免れさせてY銀行に同額の損害を与えたという事案です。

 裁判所は、

  • Xの行為は、私文書偽造罪・偽造私文書行使罪及び特別背任罪に当たるが、このうち私文書偽造罪と偽造私文書行使罪とは牽連犯であり、「私文書偽造罪・偽造私文書行使罪」と「特別背任罪」とは併合罪の関係に立つ

としました。

 この判決は、私文書偽造、偽造私文書行使の行為は、特別背任のための予備段階における準備行為にすぎず、特別背任とは別個の行為であると評価されたものと考えられています。

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