前回の記事の続きです。
特別公務員暴行陵虐罪の客体
特別公務員暴行陵虐罪は、刑法195条において、
1項 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、7年以下の拘禁刑に処する
2項 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする
と規定されます。
特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)の客体について、
1項の客体は「被告人、被疑者その他の者」
であり、
2項の客体は「法令により拘禁された者」
です。
1項の客体である「被告人、被疑者その他の者」とは?
1項の客体である「被告人、被疑者その他の者」は、被告人と被疑者が例示として示されていますが、刑事手続の対象となる者は全て含まれます。
参考人、証人、捜索差押の際の立会入、鑑定人など、刑事手続に関係する者はすべて含むと解されています。
また、実質的にも、法令により拘禁されたその他の者を除外すべき理由はないので、刑事手続のみならず、その他裁判、検察、警察の職務にかかわる者はすべて含まれると考えてよいと解されています。
したがって、民事の手続の証人や行政警察作用の対象となる者も1項の客体に含まれます(福岡高裁判決 昭和29年10月28日)。
ただし、本罪が実力が行使される機会の多い公務に従事する者に関して、特別の規定を設けている趣旨からすれば、これらの職務であっても、全く実力行使の要素がないもの(例えば警察行政作用として行われる許認可事務など)の関係者については、本罪の対象とはならないとされます。
参考となる以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 刑法第195条にいう「刑事被告人その他の者」とは、刑事司法上の被告人または被疑者本人、証人、参考人等のみにかぎらず、行政警察上の監督保護を受くべき事件の本人または関係人をも含むものと解すべきである
と判示しました。
2項の客体である「法令により拘禁された者」とは?
2項の客体である「法令により拘禁された者」とは、法令の規定に基づいて公権力により拘禁されているすべての者をいいます。
1項の客体を含み、それより広く、公権力の行使により拘禁された者が該当します。
典型的には、
- 受刑者
- 逮捕されている者
- 勾留されている者
が該当しますが、ほかに、
- 退去強制手続により収容されている者
- 少年院に収容されている者(東京高裁判決 昭和29年12月28日、広島高裁判決 平成23年6月30日)
- 精神保健法の措置入院により収容されている者
も該当します。
なお、特別公務員暴行陵虐罪2項の客体である「法令により拘禁された者」は、看守者逃走援助罪(刑法101条)の客体と同じなので、看守者逃走援助罪(2)の記事も参照ください。