これから20回にわたり、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条)を説明します。
危険運転致死傷罪(2条)とは?
危険運転致死傷罪は、自動車運転死傷処罰法2条において、
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑に処する
1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
2号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
3号 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
4号 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
5号 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
6号 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和32年法律第719号)第4条第1項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和27年法律第180号)第48条の4に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
7号 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
8号 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
と規定されます。
危険運転致死傷罪は、
危険な運転行為であることを認識しながら、衝突の危険やこれによる死傷の結果発生の可能性を真摯に考慮することなく、悪質な運転行為を行い、その結果、人を死傷させた場合
において、一般的な過失の死傷事犯である過失運転致死傷罪(5条)によりも重い処罰を科すものです。
重い処罰とは、
に準じて処罰できるようにすることが法の意図となっています。
危険運転致死傷罪の類型(2条1号~8号)
危険運転致死傷罪として掲げられている上記2条1号~8号の危険運転行為は、
悪質・危険な自動車の運転行為のうち、現在の死傷事犯の実態等に照らし、重大な死傷事犯となる危険が類型的に極めて高い運転行為
であって、
「過失犯」(過失運転致死傷罪:5条)として捉えることは相当ではなく、「故意」に危険な運転行為をした結果、人を死傷させる犯罪として、暴行による傷害、傷害致死に準じた重い法定刑により処罰すべきものと認められる類型
が掲げらえています。
罪名
罪名は、危険運転を行い、
- 相手に傷害を負わせた場合は「危険運転致傷罪」
- 相手を死亡させた場合は「危険運転致死罪」
- 相手が複数人いて一人に傷害を負わせ、もう一人を死亡させた場合は「危険運転致死傷罪」
となります。
保護法益
危険運転致死傷罪は、
「故意に危険な自動車の運転行為を行い、その結果、人を死傷させた者を、その行為の実質的危険性に照らし、暴行により人を死傷させた者に準じて処罰しようとするもの」
であり、暴行の結果的加重犯としての傷害罪、傷害致死罪に類似した犯罪類型です。
なので、本罪は、第一次的には、
人の生命・身体の安全
を保護法益とします。
また、危険運転致死傷罪が成立するときには、交通の安全等を保護法益とする道路交通法上の罪にも当たることから、危険運転致死傷罪に該当する行為を処罰することにより、交通の安全をも保護することとなるので、本罪は、二次的に、
交通の安全
についても保護法益としているとされます。
「自動車」とは?
自動車運転致傷処罰法2条に記載される「自動車」とは、
- 道路交通法2条1項9号に規定する自動車
- 同項10号に規定する原動機付自転車
をいいます(法1条)。