前回の記事の続きです。
前回説明したアルコ一ルの影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号)について、その事例を
- 単独犯の事例
- 幇助犯の事例
に分けて紹介します。
① 単独犯の事例
アルコ一ルの影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号)に当たると認定された事例として、以下のものがあります。
千葉地裁松戸支部判決(平成15年10月6日)
飲酒運転をして歩行者5名を死亡させた危険運転致死罪の被告人に懲役15年が言渡された事例です。
裁判所は、
- 被告人は、運転開始前に飲んだ酒の影響により、前方注視及び運転操作が困難な状態で、普通乗用自動車を走行させ、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより、仮眠状態に陥り、自車を時速50ないし55キロメートルで道路左外側線側に進出させ、道路左外側線付近を対面歩行してきたAほか4人に自車前部を順次衝突させて跳ね飛ばし、Aらを死亡させた被告人は、一次会である当初の忘年会終了時点で独立歩行が困難で既に部下に支えてもらわなければ歩けなかった上、本件発生約1時間後の検査で呼気1リットル中約0.55ミリグラムという高濃度のアルコールが検出されたのであるから、到底自動車を運転できるような状態ではなかった
とし、危険運転致死罪の成立を認めました。
東京地裁八王子支部判決(平成14年10月29日)
アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、進路前方で信号に従い停止中のA運転の自動ニ輪車に衝突させてBに傷害を負わせ、その後、自車左前方を同方向に進行中のB運転の原動機付自転車に衝突させてBを90メートルに渡り引きずり死亡させた上、事故現場から逃走した事案で、危険運転致死傷罪、道路交通法違反(被害者の不救護、事故の不申告)の成立を認め、懲役8年の刑を言い渡しました
福井地裁判決(平成15年3月13日)
飲食店で多量のビールを飲んだ後に普通乗用車を運転中、前方注視困難となって被害者運転の自動二輪車に追突して被害者を死亡させ、呼気検知結果が0.5mg/lであった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
東京地裁判決(平成14年11月28日)
友人方で飲酒の上、大型貨物自動車を運転中、仮眠状態となり、横断歩道で信号待ちをしていた被害者2名に衝突させて死亡させ、呼気検知結果が0. 85mg/lであった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
盛岡地裁判決(平成14年9月24日)
飲酒の上で普通貨物自動車を運転し途中まで同乗していた者が居眠りやふらつきを注意していたが、居眠りをしては目を覚ましながら運転していたものの仮眠状態となり、道路左側を対面歩行中の被害者に衝突させて死亡させ、飲酒量から呼気検知結果の数値を推定すると0.6mg/l以上であった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
長野地裁松本支部判決(平成14年9月17日)
約1.2リットルもの焼酎を飲んだ上で普通貨物自動車を運転し、帰宅の経路としては左折するはずが直進するなどした上、歩行者2名に衝突させて1名を死亡させ、1名に重傷を負わせ、事故後に逃走して民家に激突し、呼気検知結果が0. 45mg/l(事故から2時間後のものであり、事故当時には0. 64mg/lと推定)であった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
松山地裁西条支部判決(平成14年9月12日)
スナックで飲酒した後に普通乗用車を運転中、蛇行運転後、前方の原動機付自転車に衝突させて被害者1名を負傷させ、呼気検知結果が0.69mg/lであった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
仙台地裁判決(平成14年9月10日)
飲酒の上で普通乗用車を運転中、仮眠状態となり、歩行者1名に衝突させて重傷を負わせたが、呼気検知結果は約0.4mg/l程度であり、被告人が酒に酔いやすくて飲酒量が限界量に近く、勤務状況は多忙といえず疲労していたわけではなかったことなどの事情があった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
岐卓地裁御嵩支部判決(平成14年9月9日)
飲酒した飲食店で足元がふらついており、周囲から車を運転しないように言われていたのに、普通乗用車を運転中に追突し、被害者4名を負傷させ、呼気検知結果が0.45mg/lであり、追突後もアクセルを踏んだため、さらに他の車両等に衝突した事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
前橋地裁判決(平成14年9月4日)
飲酒の上で軽四輪乗用車を運転中、上り坂でバックさせて被害者1名に衝突させて負傷させたが、呼気検知結果が0.5mg/lであり、事故後に警察官に抱えられて運転席から降りてきた事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
横浜地裁判決(平成14年7月26日)
飲酒の上で普通乗用車を運転中、度々居眠りしながら運転した後、仮眠状態となり、対向車線に進出し、走行してきた被害者運転の原付自転車に衝突させて死亡させたが、飲酒検知結果から事故当時の呼気検知の数値を推定すると0. 58mg/l程度であった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
長野地裁佐久支部判決(平成14年7月26日)
飲酒の上で普通乗用車を運転中、対向車線に進出して逆走させ、対向車に衝突させて被害者1名を負傷させ、呼気検知結果が0.45mg/lであり、車両に乗る前にふらついていた状態であった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
さいたま地裁判決(平成14年6月18日)
運転前に一緒に飲酒していた知人から運転をしないように言われていたのに、普通貨物自動車を運転して仮眠状態となり、歩行中の被害者3名に衝突させ、うち2名を死亡させるなどし、呼気検知結果が0. 55mg/lであった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
宇都宮地裁判決(平成14年6月5日)
飲酒の上で普通乗用車を運転して追突事故を起こし、被害者1名を負傷させ、呼気検知結果が0. 65mg/lであり、ブレーキとアクセルを間違えて連続して3回も追突をした事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
千葉地裁判決(平成14年6月4日)
一緒に飲酒をした知人が車の運転をしないよう注意していたのに、普通貨物自動車を運転中、停止していた普通乗用車に衝突させて被害者3名を負傷させ、呼気検知結果が0. 56mg/lであり、事故後に車内で眠ったりふらついたりしていた事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
東京地裁判決(平成14年3月28日)
飲酒の後、車両に乗り込むまでに足元がふらついており、蛇行や急加速を繰り返しながら普通乗用車を運転中、道路右側に進出し、対向進行してきた自転車に衝突させた上、信号待ちのために停車していたタクシーに追突し、被害者3名を負傷させ、呼気検知結果が0.5mg/lであり、警察連行される時にまともに歩くことができなかった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
宇都宮地裁真岡支部判決(平成14年3月13日)
スナックで飲酒後に普通貨物自動車の運転を開始し、ほんど意識のない状態で大きく蛇行させながら走行し、赤信号のために停止中の被害車両に追突してその同乗者に負傷させるなどし、呼気検知結果が0.7mg/lであった事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
② 幇助犯の事例
アルコ一ルの影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号)で幇助犯の成立を認めた事例として、以下のものがあります。
運送会社トラック運転手の被疑者が、先輩として後輩のAに仕事の指導等をしており、約5時間にわたり食堂で一緒に飲酒した後で他の飲食店で更に飲酒することとして、Aが普通乗用自動車を運転し、その助手席に被疑者が同乗して死傷事故を起こした事案です。
この判決は、被疑者は、Aがアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、車両の発進を了解し、同乗して運転を黙認し続けた行為について、危険運転致死傷罪の幇助罪(危険運転致死傷幇助罪)が成立するとしました。
裁判所は、
- Aと被疑者との関係、Aが被疑者に本件車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況、これに対する被疑者の応答態度等に照らせば、Aが本件車両を運転するについては、先輩であり、同乗している被疑者の意向を確認し、了解を得られたことが重要な契機となっている一方、被疑者は、Aがアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、本件車両発進に了解を与え、そのAの運転を制止することなくそのまま本件車両に同乗してこれを黙認し続けたと認められるのであるから、被疑者の了解とこれに続く黙認という行為が、Aの運転の意思をより強固なものにすることにより、Aの危険運転致死傷罪を容易にしたことは明らかであり、被疑者に危険運転致死傷幇助罪が成立する
旨判示しました。