前回の記事の続きです。
妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)の説明
危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条1号~8号)の2条4号の行為態様である
「技妨害目的での運転による走行」
について説明します。
本法2条4号は、
人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
を危険運転行為として処罰するものです。
「人又は車」とは?
「人又は車」とは、
- 歩行者
- 自動車
- 自動二輪車
- 原動機付自転車
など道路上を通行するもの全般を意味します。
「通行を妨害する目的」とは?
1⃣ 「通行を妨害する目的」とは、
相手方に対して自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図すること
をいいます。
「回避措置」とは、例えば、
- 歩行者であれば車両をかわして避けようとすること
- 車両であれば急ブレーキ、急ハンドルなどで衝突を避けようとすること
が当てはまります。
2⃣ 「通行を妨害する目的」が認められるのは、
特定の被害者・被害車両の存在を認識し、その通行を妨害する意図を有していた場合
が典型例です。
3⃣ 通行を妨害しようとした車両と衝突した結果、その車両が、全く別の車両や歩行者に衝突して死傷者を出した場合などのように、その存在を意識していなかった被害者の関係でも、本罪が成立します。
4⃣ 不特定の一切の車両・歩行者等の通行を妨害する意図を有していた場合においても、「通行を妨害する目的」が認められる場合があるものと考えられています。
例えば、暴走族が進路一杯に広がって集団で暴走をし、対向してくる全ての車両を避譲させる意図を有していた場合が挙げられます。
5⃣ 「通行を妨害する目的」は、積極的な意図であること必要です。
相手方が急な回避措置をとることについて未必的な認識・認容では足りません。
なので、
- 誤って走行車線を変更して他の車両の直前に進入したために衝突した場合
- 交差点で直進車両の前を横切って右折する際に、「場合によっては当該車両に急ブレーキを踏ませることになるかもしれない」と認識していた程度
では、通常、「通行を妨害する目的」が認められないことが多いものと考えられています。
「人又は車に著しく接近」とは?
1⃣ 「人又は車に著しく接近」とは、
上記の「通行を妨害する目的」で、自車を相手方の直近に移動させること
を意味します。
例えば、
- 並進車両の通行を妨害する目的で幅寄せや割り込みをする行為
- 進路前方を走行している車両を後方からあおる行為
- 衝突する直前に対向車線から自車線に戻ることにより対向車両を驚かそうと企て、対向車両に著しく接近する行為
などが該当します。
2⃣ 著しく接近したかどうかは、運転車両の速度や接近状況に照らし、
相手方に回避措置を採らせることを余儀なくさせる程度であるかどうか
によって決せられます。
「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは?
「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、
- 妨害目的で相手方に著しく接近した場合に自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度
あるいは、
- 相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故を回避することが困難であると一般的に認められる速度
のことを指しています。
通常、時速20から30キロメートルであればこれに当たり得るものと考えられています。
裁判例
妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)の裁判例として、以下のものがあります。
割り込みの事例
千葉地裁松戸支部判決(平成14年7月17日)
普通貨物自動車を運転し、片側2車線道路の第一車両通行帯を時速約70キロメートルで進行中、第二車両通行帯を同方向に進行中の被害者運転車両直前に割り込んでその走行を妨害しようと企て、上記速度のまま右に急転把して自車を被害車両の直前に進入させたことにより、被害車両に衝突させるなどした事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。
対向車両を妨害した事例
神戸地裁姫路支部判決(平成14年10月29日)
普通貨物自動車を運転し、時速約55キロメートルで走行中、被害者運転の原動機付自転車が蛇行しながら対向進行して来ることに憤激し、自車との距離が接近中であるにもかかわらず、通行を妨害する目的で上記速度で自車を運転して右側車線に進入させ、著しく接近したことにより、これに驚いた被害者に衝突の危険を感じさせて急転把及び急制動を余儀なくさせ、自車を被害者運転車両に衝突させるなどした事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。