自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(8)~「あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号・6号)の創設経緯」を説明

 前回の記事の続きです。

あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号・6号)の概要

 自動車運転致死傷処罰法2条5号・6号は、

あおり運転による危険運転致死傷罪

を処罰する規定です。

 2条5号は、

車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

を処罰します。

 2条6号は、

高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為

を処罰します。

あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号・6号)の創設経緯

 「あおり運転」による死傷事犯は、従前は、「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」が適用され得るところでした。

 2条4号は、

人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かっ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

を処罰する規定になっています。

 問題なのが、2条4号は、加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行して「著しく接近」することが要件とされているため、「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」が成立するためには、

加害者車両の速度要件

を満たす必要があることにあります。

 したがって、「加害者車両の速度要件」を満たさないあおり運転行為は、2条4号を適用できず、危険運転致死傷罪で処罰できないこととなります。

 例えば、

加害者が、通行妨害目的で、走行中の被害者車両の前方で自車を停止し、被害者車両が加害車両に追突して人を死傷させた場合

などの、

加害者車両が被害者車両の前方で停止するあおり運転

は、「著しく接近」したときの加害者車両の速度が「重大な交通の危険を生じさせる速度」の要件を満たさないので、2条4号に掲げる行為には該当せず、当該あおり運手行為を危険運転致死傷罪で処罰できないこととなります。

 そこで、この問題を解決するため、

「加害者車両の速度要件」を構成要件としない自動車運転致傷処罰法2条5号・6号

が創設する法整備が行われ(令和2年7月2日施行)、あおり運転行為を危険運転致死傷罪で適切に処罰できるようになったものです。

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次の記事では、2条5号のあおり運転による危険運転致死傷罪について詳しく説明します。

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