自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(10)~「あおり運転による危険運転致死傷罪(2条6号)」を説明

 前回の記事の続きです。

あおり運転による危険運転致死傷罪(2条6号)の説明

 自動車運転死傷処罰法2条6号のあおり運転による危険運転致死傷罪を説明します。

2条6号の趣旨

 2条6号は、

高速自動車国道又は自動車専用道路においては、自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されており(道路交通法75条の8)、これらの道路で自動車を運転している者にとって、一般に、その進路上で他の自動車が停止又は徐行をしているという事態を具体的に想定しながら運転しているわけではないことから、加害者が、これらの道路において、通行妨害目的で被害者車両に著しく接近することとなる方法で自車を運転し、被害者車両に停止又は徐行をさせる場合には、これらの道路を走行中の他の運転者としては、そのような事態を想定して回避措置をとることが通常困難であるため、重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中の第三者車両が加害者車両又は被害者車両に追突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いことに着目し、危険運転致死傷罪の対象行為とするもの

です。

このように、2条6号は、第三者車両との関係で生じる危険性に着目したものであるため、加害者車両及び被害者車両については、2条5条と異なり、「重大な交通の危険を生じさせる速度」又は「重大な交通の危険が生じることとなる速度」で走行していることが要件とされていません。

2条6号の処罰規定

 2条6号は、

高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為

を処罰規定とします。

「高速自動車国道」「自動車専用道路」とは?

 「高速自動車国道」とは、

高速自動車国道法4条1項に規定する道路

をいいます。

 例えば、東北自動車道、関越自動車道がこれに該当します。

 「自動車専用道路」とは、

道路法48条の4に規定する自動車専用道路

をいいます。

 例えば、首都高速道路がこれに該当します。

「自動車の通行を妨害する目的」とは?

 「自動車」とは、自動車運転死傷処罰法1条1項に規定する「自動車」をいいます。

 具体的には、

が該当します。

 「通行を妨害する目的」とは、「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」の通行を妨害する目的と同じであり、

相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図すること

をいいます。

 妨害する対象が特定の車であることは必要ではなく、車の通行を妨害する目的があれば不特定の車に対する妨害でも「通行を妨害する目的」があるとされます。

「走行中の車…の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法」とは?

 「前方」とは、 「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」の「直前」よりも空間的な距離が長い趣旨であり、

加害者車両が、被害者車両の進行方向の前の方で停止したときに著しく接近することとなる範囲

をいいます。

 「停止」とは、

運転行為としての「停止」をいい、走行している状態から車両の車輪の回転を完全に止める行為

をいいます。

 「著しく接近することとなる方法」とは、

加害者車両及び被害者車両の走行速度や位置関係等を前提とした場合に、加害者の運転行為がなされることにより、両車両が著しく接近することとなる場合

をいいます。

 例えば、

  • 被害者車両と同一の車線の前方を走行する加害者車両が急減速し、著しく被害車両に接近する場合
  • 第一通行帯に停止していた加害者車両が、第二通行帯を走行する被害者車両が自車を後方から追い越していく寸前に発進して、自車を被害者に著しく接近させる場合

が挙げられます。

 「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」と異なり、車の通行の妨害行為の時点で、加害者車両と被害者車両が実際に接近していることを要しません。

 これは、被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している場合、そのような被害者車両の前方で停止するなど両車両が著しく接近することとなる方法で自動車を運転すれば、その時点ではいまだ著しく接近していなかったとしても、被害者車両の走行速度や両車両の位置関係等によっては、加害者車両と被害者車両の接近・衝突が不可避であり、重大な死傷の結果が生じる危険性が類型的に高いと考えられるためです。

「停止又は徐行をさせる」とは?

 「停止をさせる」とは、

運転行為としての「停止」をいい、走行している状態から車両の車輪の回転を完全に止めさせること

をいいます。

 「徐行をさせる」とは、

道路交通法2条1項20号に規定する「徐行」をさせること(自動車を直ちに停止することができるような速度で進行させること)

をいいます。

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