前回の記事の続きです。
①無免許危険運転致傷罪(6条1項)、②無免許危険運転致死傷罪(6条2項)、③無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(6条3項)、④無免許過失運転致死傷罪(6条4項)の説明
①無免許危険運転致傷罪(6条1項)、②無免許危険運転致死傷罪(6条2項)、③無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(6条3項)、④無免許過失運転致死傷罪(6条4項)は、自動車運転死傷処罰法6条において、
1項 第2条(第3号を除く。)の罪を犯した者(人を負傷させた者に限る。)が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、6月以上の有期拘禁刑に処する
2項 第3条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は6月以上の有期拘禁刑に処する
3項 第4条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、15年以下の拘禁刑に処する
4項 第5条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、10年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
本法6条の無免許運転による加重の規定は、2条から5条までの罪、つまり…
- アルコ一ルの影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致傷罪(2条1号)
- 薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致傷罪(2条1号)
- 進行の制御が困難な高速度での走行による危険運転致傷罪(2条2号)
- 妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)
- あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号・6号)
- 赤信号を殊更に無視した走行による危険運転致死傷罪(2条7号)
- 通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)
- アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転による危険運転致死傷罪(3条1項)
- 病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転による危険運転致死傷罪(3条2項)
- 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)
- 過失運転致死傷罪(5条)
の罪を犯したときに無免許運転をしていた場合には、
被疑者が実際に進行を制御する能力や技能があったかどうかを問わず
また、
無免許であることと被害者の死傷との間の困果関係の有無にかかわらず
適用されす。
本法6条は、無免許運転の上で起こした上記2条から5条までの罪を重罰化するために創設されたものです。
自動車の運転のために運転免許を取得しなければならないのは最も基本的なルールであり、無免許運転はこれを無視する規範意識を欠いたものである上、適性・技能・知識についての試験や講習を受ける機会もなく危険な運転であることから、重罰化が図られました。
犯人(主体)
免許を取得したことが全くない者はもちろん、
免許を失効した後にそれを認識しながら自動車を運転した者
も本罪の主体(犯人)に当たります。
ただし、免許を失効させたことについて認識がなくまだ免許を持っていると思っていた場合には、本罪のの故意は認められないため、本罪は成立しません。
6条1項の説明
6条1項は、
第2条(第3号を除く。)の罪を犯した者(人を負傷させた者に限る。)が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、6月以上の有期拘禁刑に処する
とする規定です。
6条1項は、2条1号、2号、4号~8号までの危険運転致傷罪を犯した者を対象とするものであり、それらの者が、それぞれの「罪を犯した時」に無免許運転をしたものであることが必要です。
本罪の対象として、2条3号が除外されるとともに、危険運転の「致傷」の場合に限定されている(「致死」は対象外)。
2条3号の「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ」た者を対象としていないのは、進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる類型の危険運転致死傷罪と道路交通法違反(無免許運転)との関係については、道路交通法違反(無免許運転)は成立せず、危険運転致死傷罪のみが成立するとされるためです。
また、「致死」の場合が対象とされていないのは、2条の危険運転致死罪の法定刑は、「1年以上の有期拘禁刑」と重く、無免許運転であったたために6条1項が適用されていまうと、6条1項は「6月以上の有期拘禁刑」であることから、無免許であったことで法定刑が軽くなり相当ではないため、人を負傷させた場合に限るとされたものです。
そして、法定刑の不均衡が生じることを回避するため、2条の危険運転致死罪(3号の無技能類型を除く。)を起こし、その際に無免許運転であった場合は、2条の危険運転致死罪(3号の無技能類型を除く。)と道路交通法違反(無免許運転罪)の両罪が成立し、両罪は併合罪となります。
また、無免許運転中に危険運転行為を行い、例えば、被害者Aを死亡させるとともに被害者Bを負傷させた場合のように、同時に死亡と負傷の結果を生じさせた場合には、本罪は成立せず、道路交通法違反(無免許運転罪)、危険運転致死罪、危険運転致傷罪がそれぞれ成立し、危険運転致死罪と危険運転致傷罪とは観念的競合となり、これと道路交通法違反(無免許運転罪)とは併合罪となると解されています。
6条2~4項までの説明
6条2~4項は、3条の危険運転致死傷罪を犯した者(6条2項) 、4条の過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯した者(6条3項)、5条の過失運転致死傷罪を犯した者(6条4項)を対象とするものであり、それらの者が、それぞれの「罪を犯した時」に無免許運転をしたものであることが必要となります。
本罪が成立する場合、道路交通法違反(無免許運転罪)は別個には成立しません(道路交通法違反(無免許運転罪)は本罪に吸収される)。
故意
道路交通法違反(無免許運転罪)における場合と同じく、本罪が成立するためには、前提となる各罪を犯した時点で、
自らが無免許であることについて故意
が必要です。