前回の記事の続きです。
① 恐喝罪と窃盗罪との関係
恐喝罪(刑法249条)と窃盗罪(刑法235条)の関係について判示した以下の裁判例があります。
福岡高裁判決(平成13年5月17日)
喝取にかかるキャッシュカードを用いて自動預払機(ATM)から現金を引き出した行為について、恐喝罪の不可罰的事後行為に当たり無罪を言い渡すべきであると弁護人の主張を排斥し、窃盗罪の成立を認めた事例です。
弁護人は、
- 論旨は、要するに、原判決の第2として、被告人がXから喝取したキャッシュカードを用いて、JR駅構内に備え付けの郵便局の自動預払機から現金10万円を引き出して窃取したとの窃盗罪の成立を認めるが、Xは、被告人から脅迫を受けて畏怖したにせよ、その判断で被告人にキャッシュカードを交付したものであって、それが瑕疵ある意思表示にあたるとしても、なお自由な意思により現金引出し行為を容認したものであることに変わりはなく、そうである以上、被告人の現金引出し行為は窃取行為にあたらず、先行する恐喝行為の不可罰的事後行為にすぎず、被告人は無罪であるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある
と主張しました。
この主張に対し、裁判所は、
- 被告人の上記現金引出し行為は、喝取したキャッシュカードを処分したような場合とは異なり、その正当な使用の権限がないのにこれを使用し、郵便局長の占有管理を侵害して現金を不法に引き出し領得したもので、さらに新たな法益侵害を構成するものであるから、窃盗罪の成立を認めるのは当然であり、恐喝の不可罰的事後行為とすることはできない
と判示し、恐喝罪(キャッシュカードの喝取)と窃盗罪(ATMからの現金の引出し)の両罪の成立を認めました。
② 恐喝罪と器物損壊罪との関係
恐喝罪と器物損壊罪(刑法261条)の関係について判示した以下の裁判例があります。
東京高等裁判所判決(平成9年3月18日)
恐喝未遂と器物損壊が包括一罪の関係に立つとされた事例です。
裁判所は、
- 職権により調査すると、原判示第二及び第三にかかる公訴事実においては、その全体を第二とし、被告人の被害者に対する通話及び被害者方家屋勝手口ガラス戸の破壊が一連の脅迫行為を組成するものとして分断することなく記載され、恐喝未遂の手段とされていること、これに対する罪名及び罰条も、「刑法第250条1項、第249条1項、第261条」と一括して記載されていることからすれば、右器物損壊及び恐喝未遂は包括一罪として起訴されたものと認められる
- 他方、これに対する原判示は、右公訴事実中器物損壊の事実を独立に第二として掲げ、それ以外の恐喝未遂の事実を第三として掲げ、両者につき併合罪の処理をしていることが明らかである
- そこで、記録により右事案の内容をみると、犯行の時間的経過及びその内容は公訴事実記載のとおりであって、当初の2回にわたる電話による脅迫行為に「家を壊すぞ」なる言葉が含まれており、その後被告人は実際に家屋ガラス戸を破壊し、その上で右破壊行為を行ったことをも被害者に申し向けて脅迫しているのであって、これら一連の行為はすべて恐喝未遂の手段となったと解されるのである
- そうすると、原判決のように、家屋ガラス戸の破壊をことさら恐喝の手段から除去して別個の事実として掲げるのはいかにも不自然といわなければならない
- さらに、恐喝未遂と器物損壊との罪数についても、前述したように、器物損壊が恐喝未遂の手段たる脅迫行為となることを意図して行われていること、この主観面を捨象し器物損壊の外形だけを捉えても、それは恐喝未遂と近接した日時場所内のものであること、両者は同一の被害者に属する同種の法益に向けられていることからすれば、本件において、恐喝未遂と器物損壊とは、公訴事実のとおり、包括一罪として重い前者の罪の刑によって処断されると解されるのが相当である
- したがって、両者を併合罪の関係にあるとした原判決は法令の適用を誤ったものであるが、この場合の処断刑と正当に法令を適用した場合のそれは、上限が懲役15年か13年かの差があるに過ぎず、原判決の宣告刑等からみて、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかではないと解するのが相当である
と判示しました。