道路交通法違反

酒気帯び・酒酔い運転(13)~「飲酒運転者への酒類提供罪(道交法65条3項)」を説明

 前回の記事の続きです。

 道路交通法違反(飲酒運転者への酒類提供罪:道交法65条3項)を説明します。

道路交通法違反(飲酒運転者への酒類提供罪)とは?

 道路交通法違反(飲酒運転者への酒類提供罪)は、道交法65条3項において、

と規定されます。

 道交法65条3項は、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがある者に、酒類を提供することや飲酒をすすめることを禁止したものです。

 本罪は、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがある者であることを認識しつつ酒類を提供し、酒類の提供を受けた者が実際に飲酒運転した場合に成立します。

 本罪は、飲酒運転の根絶を図るため、飲酒運転を幇助する行為の中でも特に悪質であると評価できるものについて、独立した禁止規定を設けた上で、独立の犯罪としたものです。

 そのため、法定刑も道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)の幇助犯よりも重く定められています。

法定刑

1⃣ 種類の提供を受け、飲酒運転した者が、

の罰則が車両等提供者に対して適用されることとなります。

2⃣ 飲酒をすすめる行為に罰則はありません。

 道交法65条3項の罰則が適用されるのは、酒類の提供行為であり、「すすめる行為」に対しては罰則が設けられていません。

 これは、単に飲酒を「すすめる行為」だけでは、飲酒運転の関与も弱く、罰則を設けるまでの必要性が認められないことによるものです。

 ただし、飲酒を「すすめる行為」が飲酒運転の教唆、幇助行為に当たる場合は、道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)の教唆犯又は幇助犯が成立し、それにより処罰されることはあり得ます。

「何人も」とは?

 「何人(なんぴと)も」とは、「だれでも」という意味です。

 「何人も」とは、法令上は、国籍、性別、年齢を問わず、日本国の統治権の対象となる全ての者をあらわす場合に用いられる用語です。

 本罪に違反した者(酒類提供者)が、運転免許を有する者である場合は、「重大違反唆し等」(道交法90条1項5号103条1項6号)として行政処分の対象となります。

「第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し」とは?

 「第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し」とは、

酒気帯び運転の禁止(65条1項)に違反して、車両等を運転することとなるおそれのある者に対して

という意味です。

「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは?

 「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは、

酒類を提供すれば、酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性があること

をいいます。

「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」の認識

 酒類提供者において、

酒類の提供を受ける者が酒気を帯びている者で、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがあるとの認識

が必要となります。

 酒類の提供を受ける者が、飲酒運転をすることとなるおそれがあることの認識は、

  • 酒類提供者と提供を受けた者の人間関係
  • 酒類の提供を受ける者の飲酒運転に関する言動
  • 飲酒運転が行われることを当然推認されるべき事情

などの具体的な状況によって判断されます。

「車両等」とは?

 「車両等」とは、

  1. 自動車道交法2条1項9号
  2. 原動機付自転車道交法2条1項10号
  3. 軽車両道交法2条1項11号
  4. トローリーバス道交法2条1項12号
  5. 路面電車道交法2条1項13号

をいいます。

 ただし、罰則が科される対象車両は、「酒酔い運転者への酒類提供罪」と「酒気帯び運転者への酒類提供罪」とで異なります。

 「酒酔い運転者への酒類提供罪」は、道交法117条の2の2第1項5号により、条文で「車両等」が処罰対象となっており、つまり、上記①~⑤の車両全てが該当し、対象車両は、

①自動車、②原動機付自転車、③軽車両、④トローリーバス、⑤路面電車

となります。

 「酒気帯び運転者への酒類提供罪」は、道交法117条の3の2第2号により、条文で「車両等(自転車以外の軽車両を除く)」が処罰対象となっており、つまり、上記①~⑤の車両から自転車以外の軽車両が除かれるので、対象車両は、

①自動車、②原動機付自転車、③自転車、④トローリーバス、⑤路面電車

となります。

「酒類を提供」とは?

1⃣ 「酒類」とは、酒税法2条1項に規定するものをいい、同項において、

  • 「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が90度以上のアルコールのうち、第7条第1項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料として当該製造免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう

と規定さます。

 したがって、アルコール分1度未満の飲料は、ここにいう酒類に該当しません。

2⃣ 「酒類の提供」とは、

自らが事実上支配している酒類を飲酒できる状態におくこと

をいい、提供を受ける者の要求の有無や有償・無償の別を問いません。

 したがって、単に目の前にある酒をつぐ行為(例えば、宴席ですでに自分の前に出されていた酒を隣の者にお酌する行為)は、ここにいう「種類の提供」には当たりません。

 ただし、その行為が飲酒運転の教唆、幇助行為に当たる場合は、道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)の教唆犯又は幇助犯が成立し得ます。

3⃣ 酒類の提供者となり得るのは、酒類を事実上支配している者です。

 したがって、飲食店の従業員で、経営者や責任者等から指示された酒を運ぶだけの役割しかない場合には、酒類を提供しているとはいえません。

「酒類を提供」時の認識

 本罪は酒類の提供を受けた者が実際に飲酒運転を行った場合に成立し、酒類の提供を受けた者が飲酒運転を行ったことの認識までは必要とされません。

裁判例

 本罪に関する裁判例として、以下のものがあります。

さいたま地裁判決(平成20年6月5日)

 居酒屋経営者の被告人が客Aに対し、酒気を帯びて車両等を運転するおそれがある状態であることを知りながら数時間にわたって焼酎等を提供し、Aが同店を出た後、酒に酔った状態で普通自動車を運転し、対向車両と衝突させ8名を死傷させた事案です。

 裁判所は、

  • 被告人とAは単に居酒屋経営者と客という関係にとどまらず、かねてからの仲間であり、被告人はAらにビールや焼酎を提供し続け、Aが運転代行やタクシー等を手配していないことやAの酒席での言動から相当酩酊していた状況を知悉しながらAの酒酔い運転を阻止する行動をしていない

として、道路交通法違反(飲酒運転者への酒類提供罪)の成立を認めました。

次の記事へ

道路交通法違反の記事一覧