前回の記事の続きです。
道路交通法違反(無免許運転車両同乗、道交法64条3項)とは?
道路交通法違反(無免許運転車両同乗)は、道交法64条3項において、
- 何人も、自動車(道路運送法第2条第3項に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項において同じ。)又は一般原動機付自転車の運転者が第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けていないこと(第90条第5項、第103条第1項若しくは第4項、第103条の2第1項、第104条の2の3第1項若しくは第3項又は同条第5項において準用する第103条第4項の規定により運転免許の効力が停止されていることを含む。)を知りながら、当該運転者に対し、当該自動車又は一般原動機付自転車を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する自動車又は一般原動機付自転車に同乗してはならない
と規定されます。
罰則は、道交法117条の3の2第1号に規定があり、
- 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する
となっています。
道交法64条3項は、自動車又は一般原動機付自転車の運転者が無免許であることを知りながら、運転者に対し、自動車又は一般原動機付自転車を運転して自己を運送することを要求又は依頼して、当該運転者が運転する自動車又は一般原動機付自転車に同乗することを禁止したものです。
※ 以下、「自動車又は一般原動機付自転車」を「自動車等」といって説明します。
複数の同乗者のうち、一人が「要求又は依頼」をし、その他の者が一緒に同乗した場合は、要求又は依頼した者は本罪で処罰されることとなりますが、その他の者には本罪は成立しません。
この場合、その他の者に対しては、道路交通法違反(無免許運転)の教唆犯又は幇助犯の成立が検討されることとなります。
「何人も」とは?
道交法64条3項における「何人(なんぴと)も」とは、「だれでも」という意味です。
「何人も」とは、法令上は、国籍、性別、年齢を問わず、日本国の統治権の対象となる全ての者をあらわす場合に用いられる用語です。
本罪に違反した者(自動車等同乗者)が、運転免許を有する者である場合は、「重大違反唆し等」(道交法90条1項5号、103条1項6号)として行政処分の対象となります。
「自動車(…)又は原動機付自転車の運転者が第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けていないこと(…)を知りながら」とは?
本罪が成立するためには、自動車等の運転者が公安委員会の運転免許を受けていないこと(運転免許の効力が停止されていることを含む。)を認識していることが必要です。
運転者が公安委員会の運転免許を受けていないことの認識は、必ずしも同乗前にある必要はなく、同乗後に認識した場合でも、認識後に要求又は依頼行為があれば本罪が成立します。
「自動車(…)」とは?
(…)で略したカッコ内の内容は、
- (道路運送法第2条第3項に規定する旅客自動車運送事業(以下単に「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く。以下この項において同じ。)又は一般原動機付自転車の運転者が第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けていないこと(第90条第5項、第103条第1項若しくは第4項、第103条の2第1項、第104条の2の3第1項若しくは第3項又は同条第5項において準用する第103条第4項の規定により運転免許の効力が停止されていることを含む。)
というものでありは、
同乗の禁止対象となる自動車から、旅客自動車運送事業の用に供する自動車で当該業務に従事中のものその他の政令で定める自動車を除く
という趣旨です。
旅客自動車等が除外されているのは、これらは人を乗せて運転し、運送すること自体を目的とするものであり、運転者が無免許であったとしても、乗客が同乗することにより無免許運転の意思が強められたり、無免許運転が助長されることとならないことによります。
「旅客自動車運送事業」とは、
道路運送法2条3項に規定する「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業」
をいいます。
その種類は、
- 一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法3条1号イ)
- 一般貸切旅客自動車運送事業(同条1号ロ)
- 一般乗用旅客自動車運送事業(同条1号ハ)
- 特定旅客自動車運送事業(同条2号)
の4つがあります。
「旅客自動車運送事業の用に供する自動車」については、本来的業務に従事中であることが必要です。
旅客自動車を自家用運送の用に供している場合や無償である場合、回送中である場合等は同乗の禁止対象とされます。
「政令で定める自動車」については、道交法施行令26条の2において、以下のとおり定められています。
法第64条第3項及び第65条第4項の政令で定める自動車は、次に掲げる自動車とする。
1号 道路運送法第2条第3項に規定する旅客自動車運送事業(以下「旅客自動車運送事業」という。)の用に供する自動車で当該業務に従事中のもの
2号 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律第2条第6項に規定する代行運転自動車
「第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで(…)」とは?
自動車等を運転しようとする者は、道交法84条1項の規定により公安委員会の運転免許を受けなければならないことになっています。
「第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで(…)」とは、「公安委員会の運転免許を受けないで」という意味です。
本条カッコ書き(…)部分の内容は、
(第90条第5項、第103条第1項若しくは第4項、第103条の2第1項、第104条の2の3第1項若しくは第3項又は同条第5項において準用する第103条第4項の規定により運転免許の効力が停止されている場合を含む。)
であり、
免許の効力が停止されている者を運転免許を受けていない者の中に含める旨を定めているもの
です。
したがって、運転免許停止中に運転すれば、無免許運転となります。
なお、道交法90条1項の規定による免許の保留処分は、もともと免許証を交付することを保留するものであるので、公安委員会の運転免許を受けていない者に当たります。
「当該運転者に対し、当該自動車又は原動機付自転車を運転して自己を運送することを要求し、 又は依頼して」 とは?
「要求」とは指示することをいい、「依頼」とは頼むことなどをいいます。
要求又は依頼行為は、運転者に自分の意思を反映させようとする意思がうかがえるような働きかけを行う行為を意味するものであり、運転者に誘われてこれを承諾するだけでは足りず、
行き先を指定するなどして同乗者が自らの意思を反映させようとしていることが認められるもの
でなければならないとされます。
明示的な要求又は依頼の文言がない場合であっても、同乗者と運転者の関係、同乗に至った経緯等、個別具体的な状況から判断して、要求又は依頼があったと認められる場合には、本罪の対象となります。
要求又は依頼は、必ずしも同乗前に行われる必要はなく、同乗後に行き先を告げるなど要求又は依頼行為が行われた場合は本罪の対象となります。