前回の記事の続きです。
道路交通法違反(飲酒運転同乗罪)の事例
道路交通法違反(飲酒運転同乗罪)の事例として、以下の裁判例があります。
宇都宮地裁判決(平成21年3月3日)
知人Bが酒気を帯びていることを知りながら、飲酒後自動車内で睡眠をとっているBを起こし、被告人の勤務先まで送ってもらうことを依頼し、Bが酒気を帯びている状態で運転する自動車に同乗した飲酒運転同乗罪の事案です。
裁判所は、
- 被告人は、平成20年12月16日夕刻から飲酒を開始し、友人らに徹夜で遊ぼうと持ちかける一方、同月17日午前9時には勤務先のペットショップでの勤務を開始できるよう、知人のBを呼び出して同所までの運送を依頼したものである
- そして、被告人は、更に上記友人ら及び日とともにカラオケ店で飲酒を重ね、後に本件犯行前後の記憶を喪失するにまで至った上で、勤務先に向かうべく、運転席で居眠りをしていたBを起こして本件犯行に及んだ
として、道路交通法違反(飲酒運転同乗罪)の成立を認めました。
さいたま地裁判決(平成28年2月17日)
友人Aが飲酒した状態で車を運転することを知りながら、自己が所有する普通貨物自動車を貸して運転させ、同乗した道交法違反(飲酒運転者への車両提供罪)及び(飲酒運転同乗罪)の事案です。
裁判所は、
- 被告人は、Aが、酒気を帯びており、本件車両を運転すれば酒気を帯びてこれを運転することとなるおそれがあるだけでなく、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態(以下「酒に酔った状態」という。)であることも分かっていたが、予定どおりAに本件車両を運転させて自己を自宅まで送ってもらうこととし、
- 同日午前1時50分頃、さいたま市浦和区(以下略)付近道路において、Aに対し、「車取ってきて。先歩いているから。迎えにきて。」などと申し向けて、前記第一ビルバーキングに行って本件車両を取ってきた上、これを運転して自己を運送することを要求し
- 同日午前1時54分頃、Aを前記第一ビルバーキングに行かせて、同所に駐車中の本件車両を提供し
- 同日午前1時57分頃、同区(以下略)付近道路において、Aが酒に酔った状態で本件車両を運転するところ、これに同乗し
- さらに、同日午前2時頃、Aが、酒に酔った状態で、同区(以下略)付近道路において、被告人を乗せた本件車両を運転した
という犯罪事実を認定し、道交法違反(飲酒運転者への車両提供罪)及び(飲酒運転同乗罪)の成立を認めました。
道交法違反(飲酒運転者への車両提供罪)及び(飲酒運転同乗罪)の罪数
道交法違反(飲酒運転者への車両提供罪)及び(飲酒運転同乗罪)とは併合罪の関係になります。
この点を判示したが以下の判例です。
東京地裁判決(平成20年7月16日)
飲酒運転者に対し、車両を貸与して提供した止、自己の運送を依頼して、これに同乗したという飲酒運転への車両等提供及び同乗の事案について、飲酒運転の車両等提供罪と同乗罪は、併合罪の関係になるとした判決です。
裁判所は、
- 被告人は、Aが酒気を帯びており、かつ、酒気を帯びて車両を運転することとなるおそれがあることを知りながら、平成20年1月22日午後11時30分ころ、東京都江戸川区(以下略)のA方付近道路において、Aに対し、自己所有の普通乗用自動車を貸与して提供し、Aにおいて、酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、同月23日午前1時ころ、東京都江戸川区(以下略)付近道路において、前記普通乗用自動車を運転した
- 被告人は、Aが酒気を帯びており、かつ、酒気を帯びて車両を運転することとなるおそれがあることを知りながら、同月22日午後11時30分ころ、前記A方において、Aに対し、飲食のために東京都江戸川区(以下略)所在の飲食店Bに行くに当たり、「車で行こうよ。」などと申し向けて、同人が運転する普通乗用自動車で自己を運送することを依頼し、同月23日午前1時ころ、東京都江戸川区(以下略)付近道路において、Aが酒気を帯びアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転する前記普通乗用自動車に同乗した
という犯罪事実を認定した上、罪数について、検察官が「飲酒運転車両等提供罪と飲酒運転同乗罪は、保護法益が共通であり、本件における両行為は時間的に近接し、いずれも同一の飲酒運転行為に向けられたものであることを理由として、包括一罪となる」と主張したのに対し、
- まず、車両等提供罪と同乗罪は、飲酒運転を絶対にさせないという国民の規範意識を確立し飲酒運転の根絶を図るため、飲酒運転を幇助する行為の中でも特に悪質であると評価できるものについて、独立した禁止規定を設けた上で、独立の犯罪とされ、その法定刑も飲酒運転の幇助犯として問擬(もんぎ)されるよりも重いものとされたものである
- すなわち、飲酒運転への車両等提供行為及び同乗行為それ自体に独自の当罰性が認められ、各行為が犯罪とされたものということができる
- そうだとすると、各罪に該当する行為があるときは、各罪が成立し、刑法54条に該当する事情がないときは、基本的に、各罪は併合罪となると解するのが合理的である
- この点、車両等提供罪も同乗罪も、車両等の提供を受けた者又は運転者が酒酔い運転又は酒気帯び運転をしたことを要件としており、両罪は飲酒運転の防止を目的とする点で共通するから、検察官の主張も理がないわけではない
- しかし、独立して設けられた個々の犯罪には、単に飲酒運転を助長するという点のみならず、車両等の提供や同乗をしてはならないという規範に違反したという点にも当罰性の根拠があるというべきである上、同乗罪には、飲酒運転による便益を享受し、また、同乗しなかった場合に比べ飲酒運転における道路交通の危険性を増大させるという独自の害悪も存在するのであって、飲酒運転を助長したという点だけでは評価し尽くせていない部分がある
- 加えて、本件において、被告人は、ファミリーレストランに行く際、レンタルビデオ店に行く際、そして同所から自宅に向かう際のいずれの段階の飲酒運転にも同乗しており、そのうちレンタルビデオ店から自宅に向かう途中の事故発生直前の飲酒運転への同乗行為が同乗罪の公訴事実とされているところ、その同乗行為自体は、本件車両等提供行為とは時間的にも離れている
- 被告人は、ファミリーレストランで運転者が飲酒していること及びレンタルビデオ店で運転者が泥酔状態にあったことを認識し、その各段階において運転者の運転する自動車に同乗しないことも可能であったに、なお再び同乗したものであり、別個の機会に同乗の意思を生じて同乗したともいい得る面もある
- なお、両罪を併合罪とすると、本犯である酒酔い運転の罪の法定刑よりも車両等提供罪及び同乗罪を行った場合の処断刑の方が重くなるが、これは個々の行為を独立の犯罪として定めた結果であって、この点も包括一罪とすべき根拠とはならない
- 以上によれば、本件の飲酒運転の車両等提供罪と同乗罪は、併合罪の関係になると解するのが合理的である
と判示しました。