前回の記事の続きです。
国際運転免許証を所持する17歳の少年が普通自動車を運転できるか?
国際運転免許証は、道路交通に関する条約(ジュネーブ道路交通条約)の締約国間において、自国へ入国した者が新たな免許試験を受けることなく自動車の運転を認めることを実証するという性格を持っています。
ところが国によっては低年齢(18歳に満たない年齢)者に対しても普通自動車の運転を許可している場合があります。
道路交通に関する条約ではその点を考慮し、18歳に満たない者については、たとえ国際運転免許証を所持していても、自動車の運転をすることができないという規定を設けています。
したがって、17歳の少年が所持している国際運転免許証で運転をすることができる自動車の種別として普通自動車を認めていたとしても、これは国際間では認められないので、その者は日本国において普通自動車を運転することはできません。
この場合に運転すれば道路交通法違反(無免許運転)が成立します。
不正手段で入手した国際運転免許証と無免許運転
不正手段で入手した国際運転免許証で無免許運転をすれば、道路交通法違反(無免許運転)が成立します。
この点を判示したのが以下の判例です。
公安委員会の運転免許を有しないAが運転を希望していることを知り、共謀の上、不正手段(金で免許証を入手)で入手したA宛ての外国の国際運転免許証1通をAに与え、2回にわたるAの無免許運転を幇助した事案です。
裁判所は、
- 自動車運転者の所持する国際運転免許証が不正手段で入手されたものであるからといって、直ちに無免許運転の成立を認めることはできないが、本件の国際運転免許証は、適性を有することを実証した上で発給を受けたものではない以上、道路交通に関する条約(昭39年条約第17号)24条1項の運転免許証ということはできず、したがって、また、道路交通法107条の2の国際運転免許証ということはできないので、これを所持する自動車運転者について無免許運転の成立を認めた第一審判決及び原判決は結論において正当である
と判示しました。
無効な国際運転免許証と無免許運転
無効な国際運転免許証で無免許運転をすれば、道路交通法違反(無免許運転)が成立します。
この点を判示したのが以下の裁判例です。
仙台高裁判決(昭和54年4月26日)
裁判所は、
- フィリピンへ旅行し一切の適性検査を受けることなく、金銭を支払って現地人より入手した国際運転免許証を、無効な右免許証を一応有効なものと信じ、これを所持すれば無免許運転に当たらないと誤信したとしても、右国際運転免許証が適性を有することの実証をした上で発給を受けたものでないことを十分認識していた以上、右の誤信は法律の不知となるにすぎず、故意を阻却するものではない
と判示し、道路交通法違反(無免許運転)の成立を認めました。
偽造された国際運転免許証と無免許運転
偽造された国際運転免許証を使って無免許運転した行為について、被告人に免許証が偽造された可能性があることを認識していたという未必の故意を認め、道路交通法違反(無免許運転)の成立を認めた以下の裁判例があります。
広島高裁判決(平成3年10月28日)
裁判所は、
- 被告人がフィリピンの正規の免許証の記載内容や発行手続に十分通じず、帰国後も本件免許証の真偽を確認するすべがないまま推移した事実に徴すれば、原判示日時当時、被告人が本件免許証が偽造免許証であることを確知していたと断定することは困難である
- しかし、被告人を始め、同一機会に国際運転免許証を取得したA・Bの3名が、帰国後もともに右免許証の真偽に疑問を抱き続けていたのは、右免許証が精巧に偽造されていたとか、英語の記載事項を解さなかったというような形式的・表面的な事情ゆえにではなく、その取得経過に不自然、不透明さを免れないという、より実質的な背景事情があったからにほかならない
- したがって、被告人が少なくとも、本件免許証が偽造された可能性のあることを認識しながら、あえて自動車の運転に及ぶという無免許運転の未必的故意があったことは明らかといわねばならない
と判示しました。
不正に入手した国際運転免許証を供与する行為は無免許運転の幇助罪に当たる
不正に入手した国際運転免許証を供与した行為について、道路交通法違反幇助(無免許運転)の成立を認めた以下の裁判例があります。
※ 幇助犯の説明は前の記事参照
大阪地裁判決(昭和56年6月4日)
裁判所は、
- 被告人は、被告人が判示A及びBに供与した国際運転免許証は日本で通用する有効なものと思っていた旨主張し、弁護人も被告人には違法性の認識がなかった旨主張するが、(証拠略)によれば、被告人が本件国際運転免許証が日本で通用する有効なものではないことを認識していたことは明らかであり、被告人及び弁護人の前記主張は採用できない
- 更に、弁護人は、前記A及びBの運転行為は同人らの意思のみに基づいてなされたものであり、被告人の行為とは無関係であるから幇助罪は成立しない旨主張するが、幇助罪が成立するためには、幇助者において正犯の犯罪行為を認識しこれを認容してそれを助けその実現を容易ならしめることが必要であるが、正犯の行為の日時、場所等具体的事実のすべてについてこれを認識するまで必要でなく、無免許の者に対し、不正に人手した国際運転免許証を供与する行為は被幇助者の無免許運転行為を容易にさせる行為であり、かつ、被告人おいて、前記A及びBが無免許運転することを認識・認容していたことは前掲各証拠により認められるので、無免許運転の幇助罪が成立することは明らかである
と判示しました。
国際運転免許証を偽造する行為と有印私文書偽造罪
国際運転免許証を偽造すれば、有印私文書偽造罪(刑法159条)が成立します。
この点に関する以下の判例があります。
正規の国際運転免許証に酷似する文書をその発給権限のない団体の名義で作成した行為が有印私文書偽造罪(刑法159条)に当たるとされた事例です。
裁判所は、
- ジュネーブ条約に基づく正規の国際運転免許証にその形状、記載内容等が酷似する文書を発給権限のない団本名義で作成する行為は、一般人をして、その文書の発給権限がある団体により作成された正規の文書であることを信用させるものであると判示された事実関係の下では、実際には団体にそうした権限が与えられていないのであるから、団体から本件文書の作成を委託されていた場合も、名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものであり、有印私文書偽造罪となる
と判示しました。