前回の記事の続きです。
速度違反と事実の錯誤(認識した超過速度が現実と一致していなくても速度違反の故意を阻却しない)
道路交通法違反(速度違反)は故意犯です(なお、過失による速度違反も処罰されます。道交法118条3項)。
故意犯としての道路交通法違反(速度違反)は、速度違反を犯すという故意がなければ成立しません(故意犯の説明は「故意とは?」の記事参照)。
ここで、運転者が法定速度60キロメートル毎時の一般道を80キロメートル毎時で走行し、20キロメートル毎時の速度超過をしていたが、被疑者としては70キロメートル毎時で走行していたつもりであり、10キロメートルの速度超過しかしていないという認識であった場合に、20キロメートル速度超過の道路交通法違反(速度違反)の故意が認められるか(20キロメートル速度超過の道路交通法違反(速度違反)の成立が認めらるか)という問題あります。
この問題は、「事実の錯誤」(行為者の認識と実際に発生した事実が一致しない場合)の問題となります(「事実の錯誤」の詳しい説明は「事実の錯誤とは」の記事参照)。
「事実の錯誤」の考え方は、「具体的符合説」「抽象的符合説」「法定的符合説」があり、通説・判例は、「法定的符合説」の立場をとっています。
法定的符合説は、簡単にいうと、
- 故意があるとするためには、犯罪行為者の認識した内容と、現実に発生した事実とが、具体的に符合していることは必要ではない
とする説です。
判例(最高裁判決 昭和25年7月11日)は、
- 犯罪の故意ありとするには、必ずしも犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを要するものではなく、両者が犯罪の類型(定型)として規定している規範において一致(符合)することをもって足りる
と判示し、法定的符合説をとる立場を明らかにしています。
道路交通法違反(速度超過)の事実の錯誤の具体例
例えば、運転者Aの運転する普通乗用自動車が
- 法定最高速度が60キロメートル毎時
- 警察官の測定速度が80キロメートル毎時
- Aが認識した速度が70キロメートル毎時
であったとします。
この場合に、Aが「70キロメートル毎時しか出していない。10キロメートル超過についての認識はある。」と主張したとします。
しかし、それは「同一構成要件内で具体的事実に錯誤があったとしても故意を阻却しない(法定的符合説)」との通説・判例の立場から、Aは、10キロメートル超過分に対する故意犯ではなく、20キロメートル超過分全体について故意を阻却しないことになります。
そして、Aには、20キロメートル超過の道路交通法違反(速度違反)の成立が認められることになります。